2007年1月に一般向け出荷を始めたクライアントOSのWindows Vista,2008年出荷開始予定の新サーバーOSのWindows Server 2008。両OSと,オンライン・サービスのWindows Liveについて,動向と今後をディスカッションした。(聞き手は中條 将典=ITpro

今回のアンケート結果からは,国内企業におけるWindows Vistaの導入意欲はあまり高くないように見えます。一方,米Microsoftは2007年10月に,Vistaの企業導入が始まって販売が急増し,累計販売数が8500万本に達したといった発表をしています。この温度差はどこから来るのでしょうか。

中田 2007年11月の終わりにMicrosoft CEOのSteve Ballmer氏が来日したときに強調していたことですが,Microsoftは日本であまりパソコンが売れていないことに危機感を抱いているようです。米国では今,年間6000万台のパソコンが売れています。それに対して,日本では1400万~1500万台です。日本の人口が1億2000万人で米国の人口が3億人ぐらいなのに,ことパソコンの販売台数の割合で見ると,米国は優に日本の4倍を超えています。ですから「Windows Vistaが8500万本売れました」と言っても,普通に売れればそれぐらい余裕で行けるということです。

 日本で全然そういう実感がわかないのは,もしかしたらWindows Vistaうんぬんの前に,パソコンが売れていないというところが,非常にシビアな問題になっているのではないかとも感じています。Microsoftは「People Ready Business─社員力を経営力に」と言っています。彼らの言う「パソコンを活用することで,社員の生産性を上げていきましょう」というシナリオ自体が,日本であまり顧みられていない可能性があるのです。

 単に,Windows Vistaがどうという個別のところを見る前に,日本で今パソコンがどうとらえられているかが重要です。ベンダーの取材をしていると,シンクライアントに対する意識がすごく強いです。「何でもできるパソコンよりも,いろいろなことをできなくさせている,シンクライアントを使わせたい」という意図が強いのだとしたら,パソコンで新しいことをする機運がないと考えられます。

勤務先PCのOSはXPが8割,Vistaは3%   自宅PCではVistaが1割程度(有効回答=1657)
勤務先PCのOSはXPが8割,Vistaは3%
勤務先で使っているクライアントPCのOSについて聞いた(複数台利用の場合は,主に使っているPCのOS)(有効回答=1656)。
  自宅PCではVistaが1割程度(有効回答=1657)
現在店頭で売られているPCはほとんどがVista搭載PCだが,2008年6月30日まではXP搭載PCも販売する。

急いでバージョンアップする必要性は感じていない

干場 Windows Vistaの商品力自体は,そんなに悲観したものではないと思います。ただ,Windows XPが良く出来ていて,非常に長く販売されたというところがVistaの日本での販売数に影響しているのではないでしょうか。すでに6年ほど販売されて普及し,ユーザーが満足しているのです。

中田 Windows XPのSP2は,OSのバージョンアップとして出してもいいぐらいの大改変だったんです。セキュリティ機能の追加がたくさんあって,仕様も大幅に変わり,すごくセキュアなOSになりました。もしWindows XPのせいでWindows Vistaが売れないのであれば,Microsoftにはあまり良いことではないかもしれませんが,それだけWindows XPが良いものだったということでしょう。

干場 そもそも,OSのバージョンアップ自体は,楽しいことではないわけです。今,パソコンのOSを入れ替えると,上に載っているセキュリティ・ソフトもすべて入れ替えて,アプリケーションも入れ替えなくてはいけなくなるので,結構な金額になります。

過半数がVista導入予定なし
過半数がVista導入予定なし
勤務先のクライアントPCのVista導入予定を聞いた。合計で14%は,1年以内に導入すると回答した(有効回答=1560)。

玉置 企業情報システムの観点から言うと,積極的にバージョンアップする動機は,過去のバージョンアップのときよりも低い印象があります。Windows 9xからWindows 2000に変わるときには,カーネルがガラッと変わったということで信頼性が大きく上がりました。これは,企業にとって非常にうれしいことで,バージョンを上げる動機になったと思います。

 それに加えて,Windows XPは販売期間がものすごく長かったですから,その間にパソコン入れ替えのサイクルが来ました。Windows 2000を入れた企業の多くがWindows XPに入れ替えています。かたやWindows XPからWindows Vistaへということになりますと,XP SP2で品質やセキュリティが上がり,周辺機器や対応アプリケーションもそろってきているわけですから,今,急いでWindows Vistaに入れ替えなければという必要性は高くありません。