自然災害やテロなど,予期せぬ事態が発生したときでもビジネスを継続できるようにする行動計画がBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)だ。企業のBCP対応の現状や今後の見通しなどについて,BCPに詳しい記者2人に聞いた。(聞き手は安井 晴海=ITpro

2007年には,様々な災害やシステム障害が多発しました。

市嶋 まず大規模な地震としては,3月に能登半島地震,7月に新潟県中越沖地震が起こりました。システム障害で大きかったのは,5月に発生した全日本空輸(ANA)の国内線の予約・発券業務や搭乗手続きに関するトラブルと,10月に起こった首都圏16鉄道の改札機トラブルでしょう。

 これらについては,アンケートで興味深い結果が出ています。BCP関連の仕事に従事している人と,していない人では,BCP関連の仕事に従事している人の方がより地震に対して「BCPがいかに重要かということを認識させられた」と回答しています。

小原 地震は,自分たちでどうにかできるものではないからでしょう。自らの意思では避けられません。それに対してシステム障害は,努力次第である程度,避けられます。また,もしかしたら「うちは大丈夫」と思っている人が意外と多いのかもしれません。

市嶋 特に中越沖地震のインパクトが大きかったのだと思います。自動車部品メーカーであるリケンの工場が操業停止に追い込まれ,完成車メーカーも製造の一時停止を余儀なくされました。地震による影響範囲が非常に広いんだということが再認識させられたと言っていいでしょう。

BCP関連の仕事に従事している人は「地震」に対する関心度が高い
BCP関連の仕事に従事している人は「地震」に対する関心度が高い
2007年に発生した自然災害やシステム障害のうち,企業にとってBCPがいかに重要かということを認識させられたものを選んでもらったところ,BCP関連の仕事に従事している人は,より地震に対して強く反応した。複数回答。BCP関連に従事している人の有効回答=330,従事していない人の有効回答=1644。
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規制がかかる前に先手を打って電話

 新潟県は,2004年にも大きな地震に見舞われています。今回の中越沖地震で,こうした震災の教訓を生かして効果を上げた企業はありますか。

市嶋 長岡市に本社を置く計器メーカー大手の日本精機が挙げられるでしょう。2004年の地震では,工場内に設置していた基幹システムが損傷を受けました。ところが,今回はシステム子会社のデータセンターに入れていたため,大丈夫でした。

小原 そのデータセンターは,免震構造になっています。センターのある長岡市街は震度5強だったのですが,情報システムの被害は皆無だったそうです。ほかにも,連絡体制の工夫が生きた企業がありましたね。

市嶋 それは空調機器メーカーのコロナです。同社は何回かの震災の教訓から,地震の際は電話回線の発信規制がかかる前にデータセンターのベンダーに電話をかけることにしています。そして,今回もそれを実践しました。大きな揺れが来る前の初期微動で「これは大きい」と感じたら即座にかける。その電話で,「運用を委託しているサーバーなどのシステム状況をチェックしてほしい」といった要望を出すとともに,作業プライオリティを上げてもらうことが目的です。

 ただし今回は,被災地に行ったら携帯電話が使えないという苦労がありました。そこでコロナは,「171」の災害用伝言ダイヤルなどを連絡に活用することを,BCPに盛り込む計画を立てているそうです。

小原 忍(日経コンピュータ副編集長,写真右)/
市嶋 洋平(日経コンピュータ記者,写真左)
小原 忍(日経コンピュータ副編集長,写真右)/ 市嶋 洋平(日経コンピュータ記者,写真左)