日本版SOX法(J-SOX)の適用開始が刻々と迫っています。社内に「内部統制プロジェクト」や「J-SOX推進室」といった組織を作り、日本版SOX法への対応を本格化させている企業も多いのではないでしょうか。

 日本版SOX法は、貸借対照表や損益計算書などによる財務報告について、結果の正しさだけではなく、作成過程の正しさを求める制度です。そのため、経理や財務といった会計関連部門だけでなく、実際にお金を動かす販売部門や購買部門も対象になります。会計システムや販売管理システムなど、企業内の多くの業務がシステム化されている今、システム部門も当然,日本版SOX法と無縁ではいられません。

 内部統制はもともと会計学に基づいた取り組みなので、ふだん会計に馴染みのない担当者にとっては、なかなか分かりにくい用語や考え方が多い、というのが実態です。また、文書化など作業の内容は理解できても、「どこまでやればいいのか分からない」という疑問や、「期限までに作業が終わりそうもない」という悩みを抱えている企業も多いでしょう。

 ここでは、日本版SOX法対応に関して、ITproや内部統制.jpの読者から寄せられた疑問や悩みをいくつか取り上げ、Q&A形式で回答していきます。今回は、適用開始が近づいた今、改めて日本版SOX法対応の基本的な意味を再確認したいと思います。次回からは2回にわたり、より実務的な話題を取り上げます。

Q1:「日本版SOX法という法律はない」と聞いたのですが、どういう意味ですか?

A1:日本版SOX法は、正確には「金融商品取引法」という法律の24条や193条などで規定されている内部統制報告制度を指します。日本版SOX法という名称の法律が存在するわけではありません。

 金融商品取引法は、投資家の保護を目的として、従来の「証券取引法」を改正した法律で、2006年6月に国会で成立し、同月に公布されました。金融商品の販売や投資ファンドにかかわる規制、経営状況や業績の四半期開示の義務化、といった幅広い内容を規定しています。

 金融商品取引法の規定する内部統制報告制度が日本版SOX法(あるいはJ-SOX)と呼ばれるのは、米国の法律である「2002年サーベインズ・オクスリー法(SOX法)」の404条と類似した取り組みを企業に求めているからです。

 日本版SOX法と米SOX法は、「財務報告の適正性を確保するために、上場企業に内部統制の整備・運用を求める」という点で共通していますが、適用範囲や監査方法などが異なります。米SOX法と同様の法律を制定している国は、日本以外にも英国や韓国、カナダなどがあります。

Q2:最終的に何をすれば、日本版SOX法に対応したことになるのでしょうか?

A2:日本版SOX法対応の最終的なゴールは「内部統制報告書」を提出することです。

 内部統制報告書とは、期末日時点における各社の内部統制の状況を報告する書類のことです。日本版SOX法が最も早く適用される事業年度の場合、期末日時点とは2009年3月31日を指します。

 内部統制報告書は、2種類の文書で構成します。1つは、経営者自身が自社の内部統制が有効に運用できているかどうかを評価する「経営者確認書」。もう1つは、経営者確認書の適正性を監査法人の公認会計士など(外部監査人)が確認する「独立監査人の内部統制監査報告書」です。

 内部統制報告書が求めているのは期末日時点での評価なので、経営者が評価のための作業を行うのは期末日以降になります。そのため、3月期決算の企業が内部統制報告書を提出する時期は、従来の決算書類と同様、6~7月ごろになると見込みです。

 評価を行うのが期末日以降だからと言って、3月期決算の企業が2009年3月31日までに日本版SOX法対応を完了すればよいかというと、それは大きな間違いです。というのも、たった1回の評価で「内部統制が有効に運用できている状態」と判断するのは非常に難しいからです。

 実際、上場企業の多くは2007年(あるいは、それ以前)から日本版SOX法対応に着手しています。本番の評価を行う前に“プレ評価”を何回か実施し、内部統制が有効に運用できるように業務を改善することが必要だと考えているからです。

 米国の市場に上場しているといった理由で、日本版SOX法よりも先行して米SOX法404条に対応した日本企業も、“ぶっつけ本番”ではなく、前年度や適用年度の中間時点で“プレ評価”を実施し、問題がある部分を改善しています。

 公認会計士やコンサルタントが「一刻も早く、日本版SOX法対応に着手しましょう」というのは、こうした事情があるからなのです。

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 次回は、決算期による日本版SOX法の適用開始時期の違いと、内部統制が有効に運用できていない場合の対処やペナルティに関する質問を取り上げます。