日本の電子商取引(EC)の規模は世界最高水準にある。だが,その質的側面や成果の大きさでは,米国に遠く及ばないのが実情だ。日本型ECが進化するためのカギは,まずECを利用して経営成果を上げるための「メカニズム」を知ること。そのうえでECを戦略的に利用し,的確に「マネジメント」することが重要である。日米企業の事例研究から得た知見を基に,質的革新への指針を解説する。

山田 良史


 経済産業省ほかの調査によれば,2006年における広義の企業間電子商取引(BtoB EC)の市場規模は,米国の196兆円に対し,日本は231兆円となった(図1)。日本のBtoB ECは,既に米国を上回るまでに成長してきている。EC化率(全取引量に占めるECの比率)においても,日本は19.8%となり,米国の9.3%を大きく上回っている。日本のBtoB ECの量的な成長は,世界的に見ても第一級のレベルと言えるだろう。

図1●日本の企業間電子商取引(BtoB EC)の市場規模は米国を上回る
図1●日本の企業間電子商取引(BtoB EC)の市場規模は米国を上回る
「狭義のEC」とはインターネット上の販売/購入を指し,「広義のEC」とはインターネットに限らず専用線などを含むネットワークを介する販売/購入を指す。専用線によるEDI(電子データ交換)は広義のECに含まれる。いずれのEC市場でも,日本の規模は米国を上回る(データ出所:経済産業省)

 だが,その内容や質の面でも,世界の第一級レベルと言えるだろうか――。次世代電子商取引推進協議会(ECOM)はこのような問題意識に基づき,ECに関する日米企業の動向を調査した。その結果,米国企業に比べ,日本企業が次のような問題を抱えていることが明らかになった。

◆EC化の主眼が業務効率化に偏っている
◆売上高の拡大や新規顧客獲得など,事業戦略へのEC活用度が低い
◆EC化の効果測定,ECの計画・評価サイクルが管理できていない

 つまり,「企業経営や産業の成長に対して,日本企業のECはまだ十分に貢献していない」ということだ。EC化率などの面では米国に比べ先行しているものの,日本企業のECは“量的”な普及段階を終え,「ECの有効な使い方は何か?」という“質的”な問題への転換期に立っているといえる。

 次世代電子商取引推進協議会のIT利活用ワーキンググループは,アクセンチュアの協力を得て「日米EC導入効果測定指標調査」に取り組んだ。このプロジェクトでは,公知の情報およびアクセンチュアが保有する情報を基に,日米78件のEC導入事例を調査した。さらに,その中から日本企業11社,米国企業3社に対して詳細なインタビュー調査を実施し,ECへの取り組みとその導入効果を探った。

 本連載は,これら14社の調査事例の分析を通してECの現状の課題を検討するとともに,ECを経営成果に結びつけるための処方箋を紹介していきたい。今回は,日本企業が解決すべき3つの課題を解説する。

ポイント1:調達ECでは日本企業が健闘するも,業務効率化が中心

 資材調達のコスト削減やリードタイム短縮のためにBtoB ECを利用する「調達EC」の分野では,日米企業の間で大きな差異はない。むしろ,日本では多くの業界で企業が連携してEDI(電子データ交換)やECの導入推進に取り組んでおり,それがEC化率の向上につながっているものと考えられる。

 例えば合成繊維業界では,サプライヤ,バイヤーを含めた国内繊維業界全体でEC化に取り組んでいる。他のアジア地域における生産拡大を受けて国内繊維業界が厳しい国際競争にさらされ,より一層の業務効率化を余儀なくされているためである。2001年,帝人,東レなどの業界各社は,ECシステム・サービス会社の「ファイバーフロンティア」を設立。業界全体で共通化したECプロセスを確立し,参加企業によるECの共同運用を開始した。

 ある企業では,ファイバーフロンティアの利用に加えて,調達業務の組織的集中化,システムの統合化を併せて実施した。その結果,直接財,間接財を含む全調達の7~8割がファイバーフロンティア経由となり,調達・発注業務の効率化とコスト低減を達成した。

 ただし,こうした日本の成功例は,あくまでも業務効率化のレベルに主眼がある,という点に注意してほしい。ECには,それを超える利用方法があり,米国企業の多くはそれを実践しているのだ。