インターネット上の様々なサービスは,目まぐるしく変化していく。2007年に流行ったものが2008 年も流行るとは限らない。2007年に話題となった「Second Life」「YouTube」「ニコニコ動画」について,3人に聞いた。(聞き手は谷島 宣之=経営とITサイト編集長

Second Lifeを「利用している」と回答したのはわずか2.5%
Second Lifeを「利用している」と回答したのはわずか2.5%
「よく利用する」と「たまに利用する」を合わせても2.5 %。比較的ITに強いと思われるITproの読者でも,7割超が「利用したことはない」としている。Second Lifeを「知らない」という回答も1割を超えた。有効回答=1945。
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まずは,2007年に大きな話題となった3次元仮想空間サービスの「Second Life」の話から始めましょうか。ITpro読者に対して実施した調査では,Second Lifeを「よく利用する」と回答した人はわずか0.6%。「たまに利用する」を合わせても2.5%しかいませんでした。この数をどう見ますか。

安井 まあ妥当な値だと思います。確かにSecond Lifeは話題にはなっていますが,周りに「利用してみた」と言う人がほとんどいないんです。英語版しかなかったときはまだしも,日本語版が始まった2007年7月以降もそうです。直感的に,特に日本では利用者があまりいないと感じます。

武部 盛り上がっているように見えるのは,はっきり言ってマスコミのせいですよ。マスコミが,Second Lifeがさもすごいもののように煽っています。

安井 日本のITベンダーなども積極的に「島(SIM)」を構築したりして進出していますよね。しかし,実際にSecond Life内を歩いてみても,ベンダーの島にはほとんど誰もいないんです。ホントにすごい孤独ですよ。時間帯によるのかもしれませんが,宣伝効果があるのか大いに疑問です。

武部 ITに詳しいベンダーが,そんなこともわからないのか不思議ですね。

中田 それは,別の効果を期待している面もあるのではないでしょうか。どこどこの会社がSecond Lifeに進出したということ自体が,新聞などで話題になりましたから。島を持つある自動車メーカーのマーケティング担当者も,「夏ぐらいまでに進出すれば新聞に取り上げてもらえると思った」と明かしていました。

武部 そんなセコい話なんですか。

中田 ただ,100万円かけてSecond Life内に施設を作っても,新聞の一面に載ればペイしますからね。

ITベンダーもSecond Lifeに進出
ITベンダーもSecond Lifeに進出
富士通(左)や日本IBM(上)などもSecondLife内に「島」を開設してプロモーションを行っている。ただし今のところ訪れる人はさほど多くない。
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利用が広がらないのは,どうしてなんでしょうか。

武部 まず操作が煩雑。ユーザー・インタフェースが練れていません。それから目的が明確ではない。他者とのコミュニケーションも,そんなに頻繁に取れるような仕掛けがありません。

安井 目的がないという点は,確かにとまどいます。参加直後は操作方法を学ぶ「チュートリアル」があるのですが,それが終わると「あとはご自由にどうぞ」といった感じです。検索機能もあるのですが,日本語が使えないので使い勝手はあまりよくない。結局,「どこに何があって,そこに行けば面白そうなことがある」といった情報を,Second Lifeの中でも外でも積極的に収集しないとダメですね。

中田 Second Lifeを企業のプロモーション活動などに利用したくても,使いにくい点があります。例えば,説明会やコミュニティの場を設けようとしても,3次元ではアバターがドッと集まってしまうので,50人も集まるとわけがわからなくなってしまう。その場でチャットしようにも,50個の吹き出しがポンポン出てきてしまったら会話になりません。「300人を集めてセミナーをやります」といったことは,ほとんど無理ですね。

否定的な見方が多いようですが,そもそも3次元仮想空間のサービスはダメということですか。

武部 そうではないと思います。Second Lifeは,マスコミなどによる取り上げられ方が悪かった。「誰それが何千万円もうけた」といった話が前面に出すぎた感があります。変に期待させすぎてしまったことが,結果的に悪評につながっている気がします。

中田 3次元仮想空間には人気が高いものもありますよ。例えば,ハワイのオアフ島を舞台にしたドライビング・ゲームの「Test Drive Unlimited」。Xbox 360版とPC版があり,日本語対応もしています。ゲーム中では,カー・ディーラに行って車を借りて,ワイキキの町やダイヤモンドヘッドにドライブできます。世界中から参加者があって,「おれとレースしようぜ」などとチャットで言ってきたりして,かなり楽しめますよ。

武部 健一(日経コミュニケーション記者,写真左)/ 中田 敦(ITpro記者,写真中央)/ 安井 晴海(ITpro副編集長,写真右)
武部 健一(日経コミュニケーション記者,写真左)/ 中田 敦(ITpro記者,写真中央)/ 安井 晴海(ITpro副編集長,写真右)

武部 それは,オアフ島という現実にある場所を仮想体験できる点が大きいんだと思います。それに,きちんとした目的がある。そういう意味では,トランスコスモスや産業経済新聞社などが出資するココアが2007年12月にアルファ版を始めた「meet-me」は面白いかもしれません。東京の実際の街を再現したサービスですから。

安井 ただ,比較的高いスペックのパソコンが必要になったり,操作が煩雑だったりという根本的な問題はどうしてもついて回るでしょう。一部のマニアは除いて,一般の多くの人が利用するには,結局,時期尚早なのではないかと思います。

 ネット上のWebサイトだって,これだけ一般的になったのは,インターネットの常時接続環境が整ってきてからです。3次元仮想空間も,そういった環境が整うまでに,あと23年はかかるのではないでしょうか。