今回のポイント
・システムで利益を上げるには
・適正価格は存在するのか
・下請けの実態
・開発依頼先を決めるポイント

 最終回です。今回は,ある意味IT業界の禁忌に触れてみます。Web+DBシステムを発注したときの見積もり額の秘密です。システムが目指す最終的な目的は”利益を上げられる仕組みの構築”です。見積もり額は利益算定の一番わかりやすいコスト判断ですが,果たして構築費用はどういう計算で生まれているのでしょうか。

利益を上げるコツは「身の丈に合った投資」をすること

 利益を上げるためにはどうするべきか。私は経済評論家ではありませんから,あれやこれや難しい話はできません。ただ物事の本質は,実はいつだって単純なものです。バサっと単純明快に言い切ってしまいましょう。「自分の身の丈に合った額を投入すること」です。

 決して都会とは言い切れない我が家周辺では,冬になると焼き芋の巡回販売車が回ってきます。焼き芋屋さんのほとんどは軽トラックを使っています。なぜ軽トラックなのでしょうか? つまらないことに見えますが,これがビジネスとシステムの投資バランスのわかりやすい例なのです。一つ数百円の焼き芋の販売にベンツやフェラーリは使えません。もしフェラーリで焼き芋を売るならば,焼き芋の単価は2万~5万円でなくてはペイできなくなるでしょう。そんな高価な焼き芋を買う物好きは,そうはいません。

 つまりWeb+DBのシステム構築費用が数億円したら,そのサイトで販売する商品(場合によってはサービスや情報,広告収入)も数億円を稼ぎ出す物でなければバランスがとれないわけです。もちろん,オープン直後に投資額がペイできるわけではなく,数億円という投資の場合は何年かをかけての償却を考えるわけです。

 ただ技術進歩が早いIT業界では長い目で見ても3年内に償却が完了して黒字転換しないと”旧態然としたシステム”として利用者から見向きもされなくなります。3年内にはシステムの大幅な改定が必要だと考えておいてください。

ミドルウエアは安易にバージョンアップしない

 3年というスパンはWeb+DBシステムを支えるミドルウエアがバージョンアップするのに十分な時間です。例えば2004年から2007年の間でWeb+DBシステムでは頻繁に利用される開発言語PHPはバージョン4からバージョン5にバージョンアップしました。同様にデータベースのMySQLも4.0から4.1,5.0系へとバージョンアップしています。

 ミドルウエアがバージョンアップしたからといって,システムのミドルウエアを常に最新のものにアップデートできるかといえば,実際には互換性が100%である保証がないため現実的には無理なのです。「昨日から日本語処理がおかしくなった」と聞いて調べてみたら,勝手にミドルウエアのバージョンが上げられていたこともありました。したがって一般的には,稼働し始めたシステムはOSやミドルウエアを含めて,開発当時の環境をそのまま稼働させ続けていくのが基本です。この期間が約3年だというわけです。

 ちょっとわき道にそれますが,ミドルウエアやOSのバージョンアップの考え方をお話ししておくことにします。新版が出ても安易にバージョンアップを行わないことでシステムとしての安定性は保たれます。PHP 4で作成されたシステムをPHP 5がでているからと簡単にバージョンアップはしないほうが望ましいということです。

 半面,ミドルウエアやOSベースでのセキュリティ・ホールがあった場合,対応が取れなくて危険な状態で稼働させ続けなくてはならなくなる危険性もでてきます。そこまでの危険性は滅多にないことながら,実際に2005年にはPHPのあるバージョンで大きなセキュリティ問題が発生し,PHPを使ったシステムでは大変な騒動が起こったことがあります(図1)。

図1●システムの再構築はおよそ3年ごとに,その段階の安定バージョンをベースに開発

 緊急と思われるバージョンアップの場合には,ミドルウエアやOSをバージョンアップしてもシステムが正しく動作するのかを十分にテストする時間が必要になってきます。このテストは本稼働開始時と同様の厳しいものが必要ですし,テストを本番機で行うことは危険なので,テスト環境を用意するなどの事前準備も必要になります。安易に「新バージョンがいいに決まっている」と判断せず,必ず開発元と連絡を密にとってからバージョンアップにあたってください。

システム単体で利益と償却の判断をしない

 ここまでお話しした内容は,数億円を必要とするシステムの話ではなく,投資額としては数百万~1千万円相当を想定しています。見積もり額の幅については,後ほどお話することにしますが,金融や証券を扱うのでなければ,およそ数百万円から1千万円が構築費の基本ラインになります。

 Web+DBシステムが欲しいなと思ったときに,システムにかかる投資額と現在の収益から予測を立てることはとても大切です。構築費は3年でペイすべきだと言いましたが,構築費相当の利益をシステムからだけ上げるという考え方は間違っています。

 実店舗を所有している販売店を想定しましょう。売り上げ推移も順調で,社長であるあなたは支店を出そうと考えました。支店を出すには土地であったり,店舗の建設,支店の従業員の雇用と教育といろいろ経費がかかります。これがシステム投資額にあたります。わかりやすくここは1千万円がかかったとしましょう。支店は新装開店から順調に業績を上げて,毎月50万円を利益として計上しました。

 ここで支店の利益だけを考えると,初期投資のペイには開店から20カ月かかることになります。しかし実際には本店にも毎月利益があり,こちらは100万円/月だとすると,毎月,本店と支店で150万円の利益があると考えられます。そう考えれば支店を立ち上げるのに使った1千万円は実は7カ月(6.66…カ月)でペイできている計算です。どうとらえるかで投資の償却判断に13カ月もの差がでてくるわけですね。

 Web+DBシステムはそれまでの通常業務から切り離された業務ではありません。それまでの業務に支店を一つ増やすような考え方です。システム単体で利益と償却の判断をするのは間違っています。

 もちろん例外はあります。純粋にWeb+DBだけを本業とする場合には,他の収益がなくなりますので,システム単体で利益確保を行わなくてはなりません。また,先ほどの例は「支店も黒字」で話を進めていることにも注意は必要でしょう。支店を出してみた,しかし赤字経営が続くことになれば,本店が上げてくれる利益である100万円/月は80万円や70万円に目減りしていきます。

 しかしながら「当社はWebでのシステム展開もしているよ」という姿勢は,ユーザーに対して好感触であることは間違いありません。当初の赤字が永遠に赤字続きであるとも限りません。優れたコンセプトとシステムを持っていれば,時間はかかってもいずれは黒字化できるでしょう。

 SIerの営業は経営コンサルティングを行うこともあります。システム導入を勧めている時には,およそ同規模の競合他社のサイトやシステムが大体これくらいの収益を上げているであろうというデータを持ってきます。

 しかしサイトからいくらの収益が上がっているのかについて公表している企業はほとんどありません。したがってそのSIerが直接自分たちで手がけている案件でもなければ,本当にいくら儲かっているのかは予測でしかないわけです。資料の信憑性は必ず,その場で問いただしてください。