車載通信機器などを製造・販売するヨコオが、日本での成功体験をもとに中国でトヨタ流改善を始めたのは2006年。その中心人物である多胡 一男氏に、取り組みの詳細をほぼリアルタイムでメルマガに寄稿してもらった。1年前の話ではあるが、現地に改善活動を根づかせるためには何が課題となるのかなど、中国で改善に取り組もうとする企業にとっては大いに参考になるだろう(日経情報ストラテジー編集部)。

多胡 一男
東莞友華汽車配件有限公司(ヨコオの中国法人) OJT-Sプロジェクト 経理担当


 皆さん、こんにちは。「ものづくりカイゼン日記in中国」は今回をもって最終回とさせていただきます。最終回は、1年間のカイゼン活動のまとめと、最近の中国事情をお話しします。
(原文は2007年7月11日付け日経情報ストラテジー・メール)

■カイゼン活動

 我々のOJT-S(トヨタ生産方式に基づく職場改善・人材育成)プロジェクトは、トヨタ生産方式(TPS)を友華汽車に展開・定着させることをテーマとして取り組んでいますが、1年を振り返ってみると様々なことが思い起こされます。

 第1期から取り組んでいるマイクロアンテナ生産工程は標準作業が定着して生産性が25%上昇しました。また物流カイゼンでは、対象部品が「かんばん」導入により約4割の在庫が削減できました。

 活動当初、結果がなかなか出ないことや現場の理解が進まないことに悩み、武田くんと夜遅くまで議論したことが昨日のことのように思い出されます。

 OJT-Sの仕組み作りは、自らが行動することで現場を巻き込むことからスタートしますが、部門の壁を越えることがうまくできなかったり、現場での活動よりも資料作りに時間をかけたりと、2人の思いとは違った行動が見られました。

 そこで我々のとった行動は、OJT-Sローカルメンバーが「ものづくりの考え方」「人づくりの重要性」などを理解できるようになるまで一緒に現場を観察し、問題点を一緒に解決していくことでした。そのことで「人任せではなく、自らが問題に向かっていく」ことを教えてきました。

 結果として友華汽車での展開は、日本でOJT-Sを研修した4人が1期のモデル職場作り、2期の横展開と5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)から職場管理の見える化まで、各テーマのリーダーとして役割を果たしてくれました。現在、若手メンバーも加わり第3期の活動中ですが、彼らが基本を繰り返し教え続けられるどうかに定着の鍵があると思います。

 私は「物づくりは、人づくり」であり、それが「品質づくり」につながると常々思っています。これからもローカルメンバーと一緒に現場を見て、できることを確実に実行していく改善チームを作っていきたいと思います。

 中国でカイゼン活動を始めるにあたり、全職場の標準作りを2年間で行いたいと考えていました。しかし、現在は物流カイゼンにも取り組んでいるため、1年を経過した今、当初の予定は変更しなければなりません。そうはいっても、トレーナーから「納期のない仕事はない」と常々いわれており、第1段階として「標準作りと物流カイゼンの全職場展開・定着」を今後の2年間で終了したいと考えています。

■関係者からのコメント

清水総経理(社長職に相当)
 TPSをベースとした“ものづくり”手法の導入プロジェクトが発足した時には、正直な思いとして言葉や習得レベルの差の問題で、「半年や1年では現場に導入できない」と感じていました。しかし、全員でモデル職場のカイゼンに取り組み、また現場スタッフを巻き込みながら短期間で次々と成果を上げていきました。大いに期待するとともに「この活動を継続的に行い、必ず定着させる」ために、全員で取り組んでいきたいと考えています。

武田経理(共に現地入りして、現場で一緒に汗をかいた仲間)
 OJT-S活動の中国展開を定着させるべく、「ものづくり、人づくり、品質づくり」を念頭に置いて活動してきました。第1期の活動では、当初は足踏みしがちで進ちょくも遅れ気味でした。日本に研修に来ていた4人が、リーダーぶりを発揮し現場を巻き込むことで改善が進みました。また、従業員の離職が日常化している中での展開だったので、定着の難しさは日本以上に苦労しています。2期、3期と展開活動を継続していますが、やらなければならないことがまだたくさんあります。基準を決め、ルール化し、現場への定着を目標に今後も進めていきます。