HANSEM EZUserGuides社(以下HANSEM社)は韓国ソウル郊外にある一般消費者向け電子製品の取扱説明書制作会社だ。現在SAMSUNG(サムスン)の携帯電話機の全モデルに対する英語と韓国語の取扱説明書を担当している。サムスンとはこれまで18年間に渡り仕事を続ける関係だ。
サムスンには機器のユーザーインターフェースやパッケージといったデザインの担当部署はあるが、取扱説明書を作成する部署はない。そのためHANSEM社は機器の企画開発から合流し、取扱説明書の企画と制作を担っている。また機器の仕様変更があるたびに既存の取扱説明書のアップデート作業を行う。
従業員数は44人。全体で20案件ほどのプロジェクトを請け負い、世界約30カ国に向けたマニュアルの制作を担当している。社内には国内向け製品担当の韓国語チーム、英語圏向け製品を担当する英語チーム、国内向け製品に英語の説明書を用意するための韓国および英語チーム、ヨーロッパ向け製品を担当する多言語チームの4部門に加えて、デザインからDTPまでを担当する制作チームとテクニカルイラストなどを担当するチームが在籍する。
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写真左から、金亮淑(キム・ヤンスク)/代表取締役。金錫玄(キム・スユン)/グラフィックデザイン部門マネジャー。金旼貞(キム・ミンジョン)/韓国語マニュアル部門チームリーダー。河志映(イ・ヨンハ)/副社長 |
コスト削減への対応策
今回の事例はサムスンが2007年5月に発売した携帯電話機「Anycall SCH-C210」のオンラインマニュアルだ。HANSEM社がサムスンに提案して実現したもので、HANSEM社の金亮淑・代表は「コスト削減への対応策の1つ」と語る。
以前から印刷コスト、流通費用削減のためサムスンから取扱説明書のページ数削減を求められていたという。ところが携帯電話の機能は年々複雑になる。1ページ当たりの情報量を増やすなど工夫しても、分かりやすい内容にするには限界があった。そこで必要最低限の情報は「簡単マニュアル」として紙で製品に同梱し、それ以外の詳細情報についてはウェブサイトで閲覧する方法を提案した。
パソコン用取扱説明書については、冊子の内容をそのままPDF化して配布していた経験はあるものの、オンライン版をオリジナルとするのはサムスンにとって初めての試みだ。また、HANSEM社もこの事例が初のサイト制作だが、マニュアルの特性を理解し、対象製品のユーザーの状態をよく把握しているなどこれまでの経験を十分生かした内容となった。
携帯電話本体とデザインの関連付け
トップページのレイアウトは、製品に同梱した取扱説明書の判型に似せて印象を統一している(図2)。また、メニュー群の配置でも製品UIとの類似性を重視した。画面上部に並列しているボタン群は左端から「JUNE」と「NATE」はサービスに関する説明だが、その次の「SKTサービス」「画面設定」「サウンド」「メッセージ」などの9つの選択肢は、携帯電話のメニューと同じものである(図3、図4)。 メニュー構成を携帯電話と統一することで、ユーザーが迷わず内容を確認できるように工夫している。トップ以下の情報表示ページも操作の中心となる画面上部には黒を背景とした配色を使い、携帯電話の操作画面(図5)と雰囲気を関連付けた。比較すると分かる通り、ウェブページと携帯電話の画面デザインにデザイン上の類似性がある。
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図1●「Anycall SCH-C210」のオンラインマニュアルのトップページ [画像のクリックで拡大表示] |
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図2●製品に同梱している取扱説明書。トップページ全体のレイアウト比率と、トップ以下のページ上部の黒い背景部分の比率はこちらの判型に似せている [画像のクリックで拡大表示] |
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図3●オンラインマニュアルのメニュー群 [画像のクリックで拡大表示] |
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図4●Anycall SCH-C210の操作画面 |
図5●Anycall SCH-C210の操作画面 |
画面上部のメニュー群にはサブメニューを持つ項目もある。サブメニューは画面左に配置し、「逆L字型」のメニュー構成とした。サブメニューの表示順も画面上部のメニュー群同様、携帯電話のサブメニューを継承している。
機能説明と基本機能を区別
画面上部のメニュー群とは別に、アイコンの付いた4つの大きなボタンが確認できるがこちらは主要機能、警告および注意、用語辞典、故障かな?の4項目のリンクを割り当てている(図6)。紙媒体による取扱説明書でも閲覧頻度の高い内容をよく目立つデザインで差別化した。このボタンは通常画面左側のサブメニューの下に配置している。ここに配置することで画面上部にメニューが集中して混み合うことを回避している。また、画面右端にも他のボタン群とは明らかにデザインの異なる2つのボタンを置いた。こちらはヘルプとサイトマップに当たる(図7)。
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図6●オンラインマニュアルのリンクボタン | 図7●ヘルプとサイトマップの表現。Flashを使い、マウスを置くと拡大する効果が付いている |
「オンラインマニュアルという形式は比較的新しいので、これ自体の使い方がよく分からないと感じるユーザーもいるはず。マニュアル本編とはちょっと違うデザインで内容の区別と強調を図った」とグラフィックデザイン部門マネジャーの金錫玄氏は説明する。