これまで,全く新しいIPネットワークやサービスとして言いはやしてきたNTTグループのNGN。だが,「商用化」という現実を目前にして突然,その位置付けが変わった。

 提供主体であるNTT東西は,商用サービスの内容を明らかにした10月25日,「NGNは,現行フレッツを高度化・大容量化したもの」(NTT東日本の渡邊大樹取締役経営企画部長)と言い切った。さらに11月8日,NTT東西が他事業者向けに開催した説明会でも,「フレッツ網からNGNへの移行は,交換機をアナログ方式からデジタル方式に変えてきたイメージ。単なるネットワークの高度化だ」とコメントしたという。

フレッツ網との違いは大容量化とQoSだけ

 こうした変化は,NGNの主導権がNTT持ち株会社からNTT東西に移ったところで顕在化した。構想レベルで物事を進められた持ち株会社と,ユーザーにサービス提供しなければならないNTT東西とでは,NGNへの考え方は全く異なる。商用化に当たりNTT東西としては,NGNを「フレッツの後継」と位置付けるしかなかった。

 実際に,NTTのNGNはフレッツとサービス品目にほとんど違いがなく,同様のサービスなら料金も同等になる予定。NGNならでは新機能は,大容量化やQoSだけと言ってよい(表1)。

表1●NTTが商用化時点にNGNで提供するサービス
大半のサービス・メニューは,現在のフレッ.サービスである。
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表1●NTTが商用化時点にNGNで提供するサービス

 NGNの大きな特徴ともいえるプラットフォーム機能SNIの外側に出し,NTTとしては提供しない仕様という(写真1)。「これはITU-Tなどで議論されている,プラットフォーム機能まで実装したNGNではない。NTTのNGNと,ITU-Tで標準化が話し合われている欧州型のNGNは別モノのようだ」と,11月13日に開かれた総務省の接続委員会で東京大学の相田仁教授がコメント。今回明らかになった商用版NGNの実像と既存フレッツとの違いの少なさは,多くの関係者が指摘する。

写真1●NTT西日本が発表したNGNのイメージ図
写真1●NTT西日本が発表したNGNのイメージ図
プラットフォームはSNIの外側にあるとしている。

  持ち株会社としても,これまでの理想像と商用化による現実との整合性を取ったようだ。「NGNの開始時は,フレッツのサービスを当然継承するので,“後継”のような表現になると思う。上位レイヤーの事業者と一緒に,NGNの機能を使った新しいサービスを展開することで,『新しい別のネットワークになった』と評価してもらえるようにしたい」(鵜浦博夫常務取締役)と説明し始めた。

「世の中にどうアピールするか悩んでいる」

 NTTのNGNの位置付けが商用化目前に突然変わったことは,今後のNTT東西の事業展開に大きな弊害をもたらす。具体的には,(1)NGN用の新しいブランド名が決めにくい,(2)料金設定が難しい,(3)フレッツからNGNへの移行計画に支障を来す──などの影響が出る。

 現にNTT東西は,NGNのブランド名やオプション料金の設定で,頭を悩ませている。これらに失敗すれば,既存のフレッツ・ユーザーをNGNへ移行する作業などがスムーズに進まない。その先に待ち受ける,「加入電話網をどうNGNで巻き取るのか」という課題にも,このままでは手を付けられない。NGNの“見せ方”でつまづくと,今後の戦略や収益に多大な影響を及ぼすからだ(図1)。

図1●NTT東西が悩むNGNの位置付けと今後の検討課題
図1●NTT東西が悩むNGNの位置付けと今後の検討課題
現行のフレッツとNGNはサービス内容などがほとんど変わらないため,ユーザーにも分かりにくい。

 NGNを使ったサービスのブランド名についてNTT東日本の古賀哲夫副社長は,「フレッツと全く違う名称だと,現行フレッツのユーザーが『ベストエフォートのフレッツは嫌だ。早く変えてほしい』と,NGNに殺到するかもしれない。逆に『フレッツのままでもいいのでは』という意見もある。世の中にどうアピールすればよいか悩んでいる」と話した。NGNを大々的にアピールすべきか,そうしないべきか,サービス名については様々なジレンマが交錯しているようだ。

 料金も大きな課題。NGNに多大な投資をしても,ほとんどのサービスは現行フレッツと同程度の料金で追加料金は取れない。QoSなど,NGNでの新機能によるオプション料金が,新たに得られる追加料金となりそうだが,NTT東日本では「まだ検討中」(渡邊取締役)としている。ただしこれも,「QoS機能を一般ユーザーが重視するとは思えず,投資回収を見込めるほどの値付けは無理」という見方が大半だ。

 既存のフレッツ・ユーザーの移行にも課題がありそうだ。NTT東日本の説明では,フレッツからNGNへ移行する際,ユーザー宅内でのUNIの変更作業を必要とせず,FTTH回線の収容先をフレッツ網からNGN用の機器へ切り替えるだけにしたいという意向を示した。

 しかし一方で,「本当にそれが可能なのか」という疑問が出始めている。「局側の収容装置が変わるため,その対向となるユーザー宅内のONUの変更など,工事が何らか必要になるのではないか」と,あるインターネット接続事業者(ISP)の幹部は首をひねる。

 実際に,「フレッツからNGNへのユーザー移行には,NTT東西とISPの間で密接な変更作業が発生するはず。非常に手間がかかる」と懸念するISPは多い。NTT東西が想定している以上に,フレッツからNGNへのユーザーの切り替えは,時間とコストがかかる可能性がある。