2005年3月からサントリーのCIOとしてIT部門を率いる神谷有二常務取締役 |
「考えてから走るのではなく、走りながら考える」と微笑みながら仕事の取り組み方のポリシーを語るのは、サントリーのCIO(最高情報責任者)に相当する常務取締役 情報システム事業部長 グループ業務推進部担当を務める神谷有二氏。2005年3月からIT(情報技術)部門を率いる神谷氏のこの言葉は、「やってみなはれ」というサントリーに脈々と受け継がれている創業の精神をほうふつとさせる。
神谷氏のキヤリアの大半は、生産部門が占める。例えば国内外で工場を新設・廃止するプロジェクトの推進者や、ビール工場の品質管理責任者だったことがある。そんな神谷氏はIT部門を任された当初、「生産部門の感覚で見ると、IT部門は金銭感覚がちょっとお金持ち」と感じたと苦笑する。
「バックアップ用のサーバーはどれくらいの頻度で故障するのと聞いても誰も答えられなかった。どの会社もそうだと思うが、生産部門では考えにくいこと。もっとも仕方ない面もあった。生産部門でのコスト削減と違い、ITは成果の測り方が分からなかったのだ。しかも成果を出すことよりも新しいものを作り出す(新システムを開発する)ことに重きを置く文化が、IT部門にはあった」と具体的なエピソードの一端を明かす。
神谷氏は2005年度から既存のITを徹底的に見直し、生産部門が日々厳しくコスト削減を進めるために行っている仕事のやり方を移植し始めた。最初の半年は、徹底的に現状把握に注力。例えば180以上あるシステムの機能や効果や利用状況を一つひとつIT部門のメンバーに説明してもらった。各利用部門にも招集をかけ、システムを再評価する会議をこの半年間で25回開催。データセンターや協力会社などの現場も20回以上訪問し、毎回納得できるまで何度も質問し続けたという。こうしてサントリーのITの全体像を徐々に把握していった。「全体を体系的に理解できれば、局所的な意思決定をせずに済み、あの買い物は失敗だったかもしれないなどと悩まずに済む」と神谷氏は指摘する。
また、神谷氏は各システムの運用費を把握するために「単位コスト」を調べた。これは年間運用費を利用回数で割り算した数値。つまり「経費を精算する」「受注する」などITによる個別の業務処理に1回当たりいくらかかったかを表す。単位コストが高ければ運用費を下げるべきだし、そもそも利用頻度が低く必要ないのかもしれない。この単位コストに代表される“生産部門的な発想”で、神谷氏は就任2年目に対前期比11%のコスト削減を達成した。
就任3年目となる2007年度に神谷氏が掲げた目標は「ITによる変革推進」「 情報システムから100%成果を引き出す」「トラブルの撲滅体質」である。「ITによる変革推進」を1番目に挙げたのは、昨年度よりもさらに業務成果への貢献に力を入れようという気持ちの表れだ。
2番目の「情報システムから100%成果を引き出す」というのは、昨年度以上に各システムからムダなコストを削ると同時に、システムを現場に徹底的に使い倒してもらおうという意味。これを実現するために、生産部門で使っている業務改善手法「TPM(トータル・プロダクティブ・メンテナンス)」を流用している。例えばTPMの「ロス分析」というツールを使って、受注システムの処理プロセスやサーバー台数のムダを明らかにし、あるべき姿を描き出す。
実はTPM導入の狙いは、コストダウンを図るだけでなく、業務改善のPDCA(計画-実行-検証-見直し)サイクルを回す習慣をつけることにある。神谷氏は、「PDCAサイクルを回す習慣はもうずいぶんできている。このまま学ぶ姿勢を忘れないIT部門であり続けてほしい」と感じている。
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