HDDは物理的な衝撃に対して非常にもろいと言われる。その理由は,磁性体を塗ったプラッタ上を磁気ヘッドが移動するという,HDDの構造にある。

 HDDに衝撃が加わると,データを読み取る磁気ヘッドがボヨヨ~ンと震え,プラッタ(円盤)を叩く。これをヘッドスラップと呼ぶ。ヘッドスラップが起きると,プラッタ上にある「0」「1」を記録する磁性体が磁気ヘッドに付着する。プラッタ側も,わずかだが磁性体が荒れた状態になる。こうなると,この部分ではデータの読み書きができなくなる。磁気ヘッドとプラッタの間の距離は10nm程度の隙間しかないから,机の上で倒すといった程度のわずかな衝撃でも,この現象は起こりえるのである(図1)。

図1●ヘッドスラップが起きた後の様子
図1●ヘッドスラップが起きた後の様子

 とはいえ,これだけですぐに支障が出るわけではないというのが,やっかいなところだ。HDDは検出回路や補正回路などエラー訂正の機構を持っている。そのため,プラッタ上の1点が破損しても,エラーが訂正されてしばらくはHDDとしては読み書きができてしまうのだ。

 しかし,プラット上の荒れた部分を磁気ヘッドが何度も往復するうちに,磁気ヘッドに付着する磁性体がどんどん増えていく。しかも,この部分はエラーが発生しやすいので,磁気ヘッドが往復する頻度も高くなりがちだ。この間,ユーザーや運用担当者はHDDの内部で起きていることに気づかないが,HDDのエラー・レートなどを見れば,リトライの回数が増加していることが分かるだろう。数週間,数カ月たったある日,HDDへの読み書きができなくなるのである。

 原因となる物理的な衝撃の後,しばらくは正常に動作することが,逆に原因の究明を難しくする。地震や移転などによってHDDに物理的な障害が加わったと思われたら,一見何の支障もないように見えても,その後しばらくはHDDのエラー・レートを特に注意深く見ておくとよいだろう。