教訓を活用・蓄積するための仕組みづくりは,PMOの一番大きな組織貢献活動だと言っても過言ではない。前回は教訓の「活用」に焦点を当てたが,今回は教訓の「蓄積サイクル」にフォーカスする。どうすればこの蓄積サイクルを現場に定着させられるか,PMOの役割を考えてみたい。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー


 初めに,前回の復習を簡単にしておきましょう。PMOはプロジェクト運営の中で,「良い失敗」から教訓を学び,「悪い失敗」を発生させないという重要な役割を担っています(詳細は第21回 プロジェクト運営の「失敗学」を参照)。この仕組みを図示したのが,以下の「教訓の活用と蓄積サイクル」です。(1)は教訓を活用するプロセス,(2)~(7)が教訓を蓄積するサイクルを表しています。

図●教訓の活用と蓄積サイクル
図●教訓の活用と蓄積サイクル

 プロジェクトが始まるとまず,PMOは教訓のデータベースからリスクを抽出し,プロジェクト管理プロセスを改善するなどして,その成果物をプロジェクトマネジャに提供します。プロジェクトマネジャは,これらの成果物を基にプロジェクト計画書を作成し,プロジェクトを正式に開始します。これが教訓を活用するプロセス(1)です。

 ここでPMOとして重要な仕事は,教訓の蓄積サイクルをプロジェクト計画書に明記しておき,「教訓の蓄積サイクルは,非常に重要なプロジェクト管理プロセスだ」ということをメンバーに周知徹底することです。その土壌があってこそ,日々のプロジェクト運営の中で生まれた「改善」,さまざまな問題への対処を通じて得た「教訓」などを形式知にして残そう,という活動につながります。蓄積サイクルの(2)は,こうした活動そのものと,それを支援するための土壌づくりを指しています。

予想できなかった失敗から教訓を学ぶ

 教訓蓄積サイクルの(3)と(4)は,リスク管理や課題管理プロセスの中から教訓を抽出・検証する作業を指しています。一般に,プロジェクトの計画フェーズではリスクを洗い出し,リスク管理を実施します。また,実施フェーズの中でリスクを発見すれば,それをリスク管理表に追加し,課題が発生すれば課題管理表に記入して管理していきます。さらに,リスクが顕在化したら,それを「課題」と捉えて課題管理表に移し,対策を立てて実施します。

 この一連のプロジェクト管理プロセスにおけるPMOの重要な仕事は,「新たに発生したリスクは,計画フェーズで予見可能だったかどうか」を検証することです。検証の結果,予見できなくてもしかたがないリスクの場合は,それを新たに教訓として追加します。

 同様のリスクが教訓として存在していたにもかかわらず,今回リスクとして抽出できなかった場合は,「どうしてそのリスクを事前に予測できなかったのか」を検証する必要があります。そのような活動を通して,教訓を貯めるだけでなく,「どうすれば教訓を生かせるか」という重要な教訓が蓄積されていくのです。

対応の効果を検証し,整理する

 次にPMOとして重要なタスクは,蓄積サイクル(5)のように,課題に対する対応の実績を整理することです。

 皆さんにお聞きしたいのですが,プロジェクトの課題管理表には課題とその対策,対応方法が記述されているでしょうが,その結果がどうなったか,きちんと書かれているでしょうか。筆者が経験してきたプロジェクトでは,単に「完了」とだけ記入しているケースが多く見られました。プロジェクトメンバーから見れば,「課題が解決すればそれで完了」という気持ちが強いのはよく理解できます。

 しかし,課題に対応する作業の中にも教訓は潜んでいます。「最初の対応方法が失敗したのはなぜか」とか,「こう対処していれば,もっと短時間で済んだ」などです。課題管理表に対応結果や気づきがきちんと記述されていれば,そこから教訓を抽出して蓄積できます。PMOは,対応結果から得られる教訓の重要性を周知して,プロジェクトメンバーをナビゲートする必要があります。