光ファイバの貸し出し方式を巡る議論が混迷を深めてきた。NTT東日本は1分岐単位の貸し出しを「全く受け入れられない」と断固反対の姿勢を改めて示した。1分岐貸しの実現には数百億円規模の費用と2年程度の時間がかかるとしており,雲行きは怪しくなってきた。

 NTT東日本は11月29日,光ファイバの1分岐単位の貸し出しに関する説明会を開催し,「全く受け入れられない」(渡邊大樹・取締役経営企画部長)とする立場を改めて強調した。NTT東日本がこういった説明会を開くのは異例のこと。「ソフトバンクやKDDIは光ファイバを安く調達できれば携帯電話などの上位レイヤーで勝負できるかもしれないが,光ファイバは我々にとって最大のサービスで,唯一の差異化材料である。設備事業者の生命線であり,一切妥協できない」(同)と強く主張した(図1)。

図1●光ファイバの1分岐単位の貸し出しに反論するNTT東日本
図1●光ファイバの1分岐単位の貸し出しに反論するNTT東日本
新サービスの柔軟な提供に支障が生じる,他社も自前で光ファイバを敷設できる環境にある,などを理由に強く反対している。11月29日に説明会を開き,1分岐単位の貸し出し要求には徹底抗戦する姿勢を示した。写真は渡邊大樹・取締役経営企画部長。
[画像のクリックで拡大表示]

1分岐でも8分岐でも月額5020円

 議論の的となっているのは,NTT東西地域会社の「シェアドアクセス」と呼ぶ加入者系光ファイバである。この場合は1心の光ファイバを局内スプリッタで4分岐,局外スプリッタで8分岐の合計32分岐に分割する仕組みになっている(図2)。

図2●NTT東西地域会社のシェアドアクセスの仕組み
図2●NTT東西地域会社のシェアドアクセスの仕組み
1心の光ファイバを局内スプリッタで4分岐,局外スプリッタで8分岐することで,最大32ユーザーを収容できるようになっている。接続料はNTT東日本の例。
[画像のクリックで拡大表示]

 この回線をほかの事業者が利用する場合の接続料は,ユーザー宅への引き込み回線「光信号分岐端末回線」が月額511円/回線,局外スプリッタを含む「光信号主端末回線」が月額5020円/回線,局内スプリッタが月額2316円/スプリッタ,接続事業者のIP網と接続する「光信号伝送装置」(OLT)が月額4020円/OSUとなっている(いずれもNTT東日本の場合)。

 このうち貸し出し単位が問題となっているのは,局内スプリッタと局外スプリッタを結ぶ「光信号主端末回線」の部分である。光信号主端末回線の接続料は,局外スプリッタで収容しているユーザー数に関係なく月額5020円/回線。一つの局外スプリッタに多くのユーザーを収容できればユーザー当たりのコストは安くなる。ただし「局外スプリッタがカバーするエリア(光配線区画)が狭く,実際は1分岐しか利用できないので効率が悪い」(他事業者)という。

 そこで他事業者は,光信号主端末回線をNTT東西と共用させてほしいと要望している。光信号主端末回線を共用して一つの局外スプリッタに各社のユーザーを収容すれば,共用した事業者で接続料を案分できるのでユーザー当たりのコストを引き下げられる。光信号主端末回線を1分岐相当の接続料で使えるようにすることを「1分岐貸し」という。

1分岐貸しの実現に数百億円かかる

 NTT東日本が1分岐貸しに反対する理由として,以前から一貫して主張しているのは「新サービスの柔軟な提供に支障が生じる」点だ。

 光信号主端末回線を他業者と共用すると,局内スプリッタやOLTまでも共用することになる。この状況でNTT東西が新サービスを提供する際は,他社ユーザーへの影響や設備投資負担などについて設備を共用する事業者と調整が必要になり,サービスの迅速な展開が難しくなるという。「サービスの品質や価格に対するポリシーも事業者ごとに異なるので,共通の運用ルールを作るのは難しい。新サービスを提供するときも調整が不調になる可能性が高い」(渡邊取締役)。

 このほか,「他社ユーザーの帯域は制御できないので,NGN(次世代ネットワーク)の特徴である帯域制御を自社ユーザーに提供できなくなる」,「途中経路に障害が発生した場合は設備を共用する全社と連携しながら対応しなければならず,復旧時間が長期化する」といった点を挙げている。

 NTT東日本は設備こそが他社との差異化材料と考えている。これまでも光信号伝送装置や分岐数を変更しながら速度の向上や映像サービスの追加といったサービス強化を図ってきた。設備の変更は過去6年間で4回に及ぶ。他社と設備を共用するとこうした差異化が難しくなる。「設備の共用を希望している事業者は顧客基盤も資金力も十分にある。光ファイバを自前で敷設すれば我々と同じように顧客を獲得できるはず」(渡邊取締役)と訴える。

 さらに,これらの点を抜きにして仮に1分岐貸しを実現するとしてもu最低数百億円規模の費用がかかる」(NTT東西)という。オペレーション・システムの開発や事業者振り分けスイッチの追加が必要になるほか,設備の運用管理コストも増える(図3)。開発期間も「仕様を決めてから最低2年程度かかる」(同)とする。

図3●光ファイバの1分岐貸し実現にかかる費用は少なくとも数百億円規模
図3●光ファイバの1分岐貸し実現にかかる費用は少なくとも数百億円規模
NTT東西地域会社によると,オペレーション・システムの開発や事業者振り分けスイッチの追加が必要になるほか,設備管理の運用コストも増えるという。開発期間も仕様を決めてから最低2年程度かかる見通しである。
[画像のクリックで拡大表示]

「希望事業者だけでやればいい」

 論点は1分岐貸しだけにとどまらない(図4)。KDDIは局内スプリッタやOLTなどの設備を,共用ではなく占有する形で1分岐単位の接続料を設定することを提案している。貸し出し形態は現状と同じで,光信号主端末回線の接続料は実際に利用した分岐数分だけを負担するものだ。

図4●光ファイバの貸し出し方法を巡る議論の状況
図4●光ファイバの貸し出し方法を巡る議論の状況
両陣営とも相手の主張に強く反論しており,議論は平行線をたどったままである。光ファイバの1分岐単位の貸し出しは,開発費や開発期間の面でも実現が難しくなってきた。
[画像のクリックで拡大表示]

 NTT東西はこの案にも,設備の無駄が多いとして反対する。「設備の利用分に応じたコスト負担の適正性が崩れる。稼働率が低い事業者は品質の良いサービスを提供できるので,設備を効率的に利用するインセンティブも働かなくなる」とする。

 さらにNTT東西は,「現状でも事業者振り分けスイッチを自前で設置すれば希望する事業者間で1分岐単位で利用できる」と提案する。これに対して他事業者は,あくまでNTT東西との設備の共用を要求する。「1分岐単位の接続料を要求する狙いはNTT東西と他事業者との間の公正競争の実現にある。ボトルネック事業者(NTT東西)と他事業者で競争環境が異なるのは不適当」(KDDI),「NTT東西と共用するのとしないのとでは,設備の稼働率が大きく変わってくる。NTT東西の現行の稼働率が8分の3以下であれば,NTT東西にも共用するメリットは十分にある」(イー・アクセス)。

1分岐貸しの実現に暗雲?

 このように光ファイバの1分岐貸しを巡る議論は平行線をたどるばかり。接続委員会の議論でも委員から「競争状況や技術的な問題などを踏まえて検討する必要があり,すぐに判断するのは難しい」,「技術的には可能としてもNTT東西の主張も理解できる。このバランスをどう考えるか悩ましい」といった発言が出ており,問題の難しさを物語っている。

 ただ,これまでの議論を総合すると,1分岐貸しの実現は難しくなってきた。前述した開発費や開発期間が理由だ。

 ソフトバンクは「追加コストの具体的な内容を提示させ,適正性を検証すべき」としている。しかし仮にNTTの言うコストや時間がかかるのであれば,NTT東西による光ファイバのシェア独占に歯止めをかけたいとする他事業者のもくろみは崩れる。2年後に1分岐貸しが実現できたときには,NTT東西のユーザーは大きく伸びているからだ。

 そもそもNTT東西に1分岐貸しを強要できるのかという問題もある。NTT東西は「当社だけ共用を義務付けられるのは競争中立性を著しく欠く。共用するかしないかは各社の経営・営業判断に委ねるべき」と主張している。「NTT東西がボトルネック事業者であるとしても,経営の自由度を奪ってまで1分岐貸しを強要するのは難しい」(業界関係者)とする意見も出ている。

 1分岐貸しにはNTT東西と激烈な設備競争を展開している電力系事業者やCATV事業者も反対する。1分岐貸しが実現するとソフトバンクやKDDIなどがNTT東西の光ファイバを借りやすくなり,これを利用したサービスが増えると予想されるためだ。

 電力系事業者やCATV事業者には「対抗値下げの余力はなく,早晩市場退出を余儀なくされる」という危機感がある。結果,「NTTの独占回帰につながり,総務省が推進する設備競争政策を否定していることになる」(電力系事業者)と訴えている。

ダーク・ファイバの接続料にも影響

 一方,NTT東西の光ファイバにはシェアドアクセスとは別に,1心を占有するダーク・ファイバもある。この接続料は現在月額5074円。これは将来7年間に予測される原価・需要に基づいて算定したもので,2007年度までの適用となっている。2008年度以降は接続料を改定する予定だ。

 この接続料が安くなった場合も他事業者は光ファイバを借りやすくなる。ソフトバンクやKDDIはダーク・ファイバの接続料の値下げと1分岐貸しの両にらみで貸し出し料金の低廉化を狙っている。そこでダーク・ファイバの接続料と1分岐貸しの両方を合わせて調和点を模索する可能性もある。

 いずれにせよ接続委員会は1月下旬に予定する報告書案でいったん結論をまとめる予定である。