2004年ころに新たに登場したのが,動画を使ったシステムと,「バーチャル・スライド」と呼ばれる拡大・縮小が可能な大容量データを使う方式だ。

 動画方式の一例として,NTTコミュニケーションズの子会社であるNTTレゾナントの「WarpVision」をベースに,NTTレゾナントと医療情報システムの開発会社であるフィンガルリンクが共同でシステムを開発したものがある。これは顕微鏡にビデオカメラを接続し,最大640×480ドットの解像度で30フレーム/秒の動画像を送信する(図1)。MPEG-2で2M~8Mビット/秒のデータを扱うため,伝送路にはBフレッツの利用を推奨している。

図1●動画方式の仕組み
図1●動画方式の仕組み
図はNTTレゾナントのテレビ会議システム「WarpVision」をベースに,NTTレゾナントとフィンガルリンクが開発したシステム。顕微鏡にビデオカメラを接続し動画を伝送する。診断側から遠隔で顕微鏡をコントロールすることも可能だ。
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 診断側から依頼側の顕微鏡の倍率変更や位置の移動,焦点を微妙にずらすといった遠隔操作機能も備える。電動式の顕微鏡を使い,コントロール信号をパケット化してネットワーク経由で伝送する仕組みだ。これによって遠隔地に検体があっても,病理医があたかもその場で顕微鏡を扱っているかのような操作感を実現している。

 澤井教授は「送信元が顕微鏡に検体を載せるだけで,病理医は顕微鏡をのぞいているのと同じ感覚で診断できる。診断時間も通常の病理診断と変わらず2~3分で終わる。静止画の時代と比べると夢のような世界になった」とメリットを語る。

 バーチャル・スライド方式は,顕微鏡画像を転送するというテレパソロジー・システムとは全く異なる考え方を持つ。まず送信側が専用装置を使って患者の検体をスキャン。クリック操作によって拡大・縮小が自由なデジタル・データとして保存する。それをネットワーク上のサーバーにアップロードすることで,ネットワークを介して複数の病理医が同時に検体を診断できる形だ(図2)。診断側はブラウザを使って閲覧するため,どこからでも診断できるのが魅力である。

図2●バーチャル・スライド方式の仕組み
図2●バーチャル・スライド方式の仕組み
依頼側で検体をスキャンしたデジタル・データをファイル・サーバーに蓄積。複数の病理医から同時に診断できるようにする。

 静的データに落とし込んでいるとはいえ,実際の操作感は顕微鏡をのぞいている場合に近い。診断側はブラウザを介してデータを閲覧するが,マウス操作によって検体の移動や拡大・縮小が可能になっている。ちょうどGoogle MapsのようなWebアプリケーションと似た操作感だ。その点から,バーチャル・スライド方式はWeb 2.0技術を医療分野に応用したシステムとも言える。