ブロードバンド時代のネットワーク・サービスの拠点として,データセンターは常に進化を続けている。今回,データセンター事業大手のソフトバンクIDCの「新宿データセンター」の内部を見学する機会を得た。新宿データセンターは,同社がこれまでのデータセンター事業の経験から得たノウハウを生かして,さまざまな工夫が施されている。そうした工夫を含め,最新のデータセンターの内部を紹介しよう。
案内役は,同社の山中敦氏(技術本部 施設部 マネージャ兼社長室経営企画部ファシリティアーキテクト)と中山一郎氏(ソリューション事業本部カスタマーサービス5部 部長)の両名だ。
なお,データセンター内部は写真撮影が禁止されており,この記事の写真は一部を除いてソフトバンクIDCが提供したものである。
古くて新しい新宿データセンター
ソフトバンクIDCの新宿データセンターのビルは,1973年竣工とかなり古い。しかし,2005年から2006年にかけてデータセンター用の設備を最新のものに入れ替えた。言わば“古くて新しい”データセンターである。
このビルは11階建てで,そのうち2~8階がデータセンターとして利用されている。2~5階までは,設備入れ替えの前から利用されていた。6~8階は新たに設備を導入してデータセンターとして使われることになった。
友連れ防止に特殊なゲートを採用
データセンター内部に入るためには,まず認証機能を備えたゲートを通過しなければならない。
データセンターのセキュリティを維持するには,入館許可を受けている人が許可を受けていない人をいっしょに連れ込む,いわゆる「友連れ」を防止することが重要となる。新宿データセンターでは,友連れを防ぐための特別なサークル・ゲートを採用している。
ゲートの幅はやっと一人が通れるほどの狭さで,トビラが2重になっている(写真1)。実際に入館するには,次のような手順を踏む。まずボタンを押して表のドアが開けて中に入る。すると表のドアが閉じる。そして,登録された非接触ICカードを内部のパネルにかざし,さらに,手のひらを使った生体認証を行う(写真2)。このゲートでは手のひらの形状を使った認証方式を採用している。手のひらの形状は,あらかじめ入館時に登録しておく。
「確実な友連れ防止には,こうした特別なゲートを使う方法しかありません」(中山氏)。
冷気と暖気を遮断して冷却効率を向上
ゲート通過後,まず通されたのは6階である。このフロアには,ユーザーに貸し出すためのラックが並んでいる。
「一つのフロアには,235個のラックを置けるスペースがあります。ユーザー専有のスペースもあるので,実際にはもっと少なくなりますが,200個以上は提供できます」(山中氏)。
よく見ると,通常のラックと異なり,架列(ラックを並べた1列分のこと)を2列に並べ,その間をトビラで密閉している。効率的な冷却を実現するために同社が独自開発したラック「ColdMall」である(写真3)。
|
|
ColdMallでは,架列を2列に,前面同士が向き合うように並べ,周囲をプラスチックなどで覆う。こうすることで,冷気と暖気を分離し,効率的な冷却を実現した。
通常のデータセンターで空冷を利用する場合,ラック内の対流を利用して,自然にまかせて冷却していた。こうすると,冷却装置で冷やした冷気が,ラック内の装置を冷やす前に,暖気と混ざり,冷却効率が落ちてしまう。
通常のラックを使う場合,フロア全体を冷やす必要がある。一方,このColdMallでは,ラックの外部はむしろ暖かく,内部だけが涼しくなっている(写真4)。
200V系電源をラックごとに用意
写真5●架列の分電盤 字が小さくて読みにくいが,「100V系」と「200V系」と書かれたメーターが付いている(写真はソフトバンクIDCの提供)。 [画像のクリックで拡大表示] |
「このようにすべてのラックで200Vが利用できるデータセンターはほかにはないと考えています。ほかのデータセンターの場合,すべてのラックに200V系が利用できるわけではありません。また,始めから200V系が用意されていない場合,工事のために1カ月以上待ってもらうケースもあります」(山中氏)。
「この新宿データセンターなら,ブレード・サーバーに200V系を2系統,ネットワーク機器に100V系を1系統使い,さらにそれぞれ電源を2重化できます」(中山氏)。
各ラックに電力を供給する電源は,通常時に2万5000Vの特別高圧電力を利用。緊急時に備え,屋上に2機の自家発電機を設置している。
古いケージ・タイプのラック・スペースも提供
次に,2階を訪れた。ここには,ケージ・タイプのラック・スペースがある(写真6)。ここに置かれているサーバーやネットワーク機器の実装密度が高くない。こうしたスペースは,古くからのユーザーがよく利用するという。
写真6●ケージ型ラック・スペース こうしたラックでは,ユーザーが勝手にLANケーブルを引き回すため,スパゲッティ状になりがちだと言う(写真はソフトバンクIDCの提供)。 [画像のクリックで拡大表示] |
ユーザーが手軽に利用できるスペースを用意
データセンターの脇には,ネットワーク機器にちょっとした設定を施すための「カスタマー・ビジネス・ラボ」というスペースを用意している(写真7)。ユーザーは,実際に装置をラックに置く前に,ここで設定できるようになっている。インターネットにつながるポートも用意されていて,インターネットとの接続をここで確認できる。
写真7●カスタマー・ビジネス・ラボ データセンター内に設けられた,ユーザーが自由に使えるスペース。インターネットに接続できるポートが用意されている(写真はソフトバンクIDCの提供)。 [画像のクリックで拡大表示] |
「データセンター内には,実はあまりこうしたスペースが用意されていないんです。このカスタマー・ビジネス・ラボはお客様に非常に喜ばれています」(中山氏)。
ラックやネットワーク機器を実際に展示
最後に,同社が11月に開設した「カスタマー・ソリューション・センター」を見学した。ここにはデータセンターで利用されるラックやサーバー,ネットワーク機器の実機が展示されており,実際に手に触れて使用感を味わえるようになっている(写真8)。
写真8●カスタマー・ソリューション・センター 協力ベンダーが提供した最新の装置が展示してある。このほか,有明のデータセンターから移転してきた統合監視センターの様子をガラス越しに確認できるようになっている。 [画像のクリックで拡大表示] |