システム構築プロジェクトでは,多くの場合,メンバーを集めることがリーダーの最初の仕事だ。では,あなたが突然リーダーに任命されたら,どのようにメンバーを集めるだろうか?

 今回は,「チーム・リーダーの果たすべき役割はこれだ!」と題して,メンバー構成の極意を伝授しよう。前回紹介したケーススタディの話の続きから,スタートすることとしたい。

 経営企画部長から,次期基幹システム再構築プロジェクトのリーダーに任命された山田さとし。部長に「次期基幹システムは,当社の将来を担う若手に新しい考え方で取り組んでもらいたいんだ。まずは,業務の現状の課題を調査してほしい。プロジェクト・メンバーには,主任クラスをアサインしてもらうよう財務と購買,生産管理部長には頼んである。営業と開発,製造部門のメンバーは,君の方で一度リストアップしてみてくれないか」と依頼された山田だが・・・。

山田:「メンバーを選んでくれといわれても,どうやって選べばいいんだろう?さっぱり見当が付かない。そうだ!まずは今回のプロジェクトのゴール,目的,期間を部長に確認しておこう」

 あけぼの産業 経営企画部にて。

山田:「部長。先日説明いただいた次期基幹システム更新プロジェクトですが,今回は,今の業務を大きく変えることも視野に入れておいた方がいいんでしょうか?それから,いつまでにシステムはカットオーバーしなければならないのでしょうか?メンバーを検討する前に,確認させていただいた方がいいと思いまして」

部長:「それを言っていなかったか。今回は,あけぼの産業全体の基幹システムだからね。10年先まで使い続けるくらいの気持ちで,現状の課題解決だけではなく,『こういう業務にしなければならないからこんな機能が必要ではないか』というように,高い目線で考えてほしいんだ。カットオーバーは,会計年度の関係もあるから,2009年4月と社長から言われている。まずは,3カ月で現状業務の調査をして,課題を洗い出してくれないかな。そのうえで,カットオーバーまでのマスタースケジュールを作ってみてくれ。今の基幹システムの範囲から考えて,営業,生産管理,製造,購買,財務と開発あたりが対象範囲だと思う」

山田:「分かりました。どんなメンバーを集めたらいいか考えてみます」

 デスクにて。

山田:「現状業務の調査か。3カ月というと,長いようで短いから,ある程度の経験者でないと。それで部長は,主任クラスをアサインしてくれるよう財務,購買,生産管理の部長さんに願いしてくれたんだろう。よし,まずは財務,購買,生産管理の部長さんに,どんなメンバーを考えているか確認してみよう」

 財務部にて。

山田:「部長。次期基幹システム再構築のプロジェクトリーダーをさせていただきます,山田です。早速なのですが,うちの部長から,財務のメンバーのアサインについてお願いをさせていただいていると思うのですが」

財務部長:「うん,聞いてるよ。主任クラスがいいという話なので,うちの佐々木主任を考えている。彼は,入社して10年間財務一筋で,計算にはめっぽう強く,間違ったことは大嫌いな男だ。ただ,積極的に発言するタイプではないかもしれない。山田君,鍛えてやってくれよ」

山田:「佐々木さんですか!よく存じています。私が新入社員の時の教育係をしていただいた方です。一つ一つきっちり仕事をこなしていく方で,『さすが社会人は正確さが違う』と感動したことを覚えています」

財務部長:「そうだったか。ただ,彼は融通が効かないところがあるので,チームとしての仕事にはちょっと心配もあるんだ。君より年上でやりづらいかもしれないが,よろしく頼むよ」

 同様に山田は,購買部長,生産管理部長にも,どんなメンバーを考えているのかを確認していった(表1)。

表1●財務,購買,生産管理部門のメンバー
部門名前役職入社後年数職務経歴特徴
財務佐々木主任10年財務一筋理論派で仕事の正確さはピカ一。正義感が強く,途中で投げ出すようなことはないが,周りのメンバーとの協調性に心配がある。山田より年上で,指示には気をつかいそう
購買伊藤主任6年生産管理を4年経験後,購買へローテーション。購買ではサプライヤーとの契約管理を担当学生時代からサッカーの選手で,あけぼの産業のサッカー部エース。果敢にゴール手前まで走りこみ積極的にシュートを放つが,やや個人プレーに走る嫌いあり
生産管理鈴木主任8年山田と同期入社。生産管理では,製造部門の生産計画から,製品の出荷計画,部品の発注計画まで一人で担当するキーマン職場の同僚や上司はもとより,サプライヤーからの信頼も厚い。プロジェクトに時間がどれだけ割けるか不安な面あり。山田と同期ということもあり,山田をライバル視している。性格的には中庸

 その結果,3人とも山田と年齢が比較的近いことが分かった。「3人は決まったけど,自分と年齢的に近い人間ばかりで,果たして全社のプロジェクトを推進していけるのだろうか・・・」。そう不安に思った山田は,製造と開発部門からはベテランに参加してもらおうと考えた。

山田:「まずは現状業務の調査といっても,今回のメンバーがこのプロジェクトのキーメンバーになるはずだ。システムを使うユーザーの意見を吸い上げたり,ユーザーに検討のための時間を割いてもらったりするためには,ユーザーに影響力のある人がメンバーに欲しいな。そのためには,会社に古くからいる人の方がいい。製造部門からはそんなメンバーに参画してもらおう。開発も職人気質の人が多いから,自分が出かけていっても,話もしてくれないかもしれない。ここもベテランをチームメンバーにしなければ」

 こうして,山田は自分なりに製造,営業,開発部門のメンバー像を固めていった(表2)。

表2●山田が考えたメンバー像
部門役職入社後年数職務経歴特徴
製造工長30年製造経験長く,工長として現場の責任者を何年も経験現場では,誰もが知る一目置かれる存在。現場のユーザーを動かすには適任。職人気質で現実的
営業主任6年程度営業6年で中堅どころ自宅から直行・直帰のことも多く,会社にあまりいない。話が上手で,発言も積極的
開発技師長20年開発部門のベテラン社員社運をかけた新製品開発も経験し,プロジェクト経験も多い。理性的