日経ニューメディア 編集長
高田 隆
日経ニューメディア 編集長 高田 隆

 改正放送法の成立によって,NHKのインターネット事業への本格参入が可能になりました。NHKが計画しているのは,過去に放送した番組をブロードバンドインターネット経由で視聴者に提供する「アーカイブス・オンデマンド」というサービスです。

 日経ニューメディアは,放送業界と通信業界を主にウォッチする週刊のプロフェッショナルレポート(ニューズレター)です。今回は,2011年以降の本格的なメディア融合時代に向けて,放送分野で2008年に注目される重要な動きを見ていきましょう。

 2007年12月21日に,放送法改正案が参議院で可決・成立しました。2007年の通常国会からの継続審議になっていましたが,民主党が反対していた複数の項目(番組捏造防止策の作成を放送局に義務付けることなど)を自民党が削除あるいは修正したことで,難産の末に成立にこぎ着けました。

 改正放送法の成立によって,NHKのインターネット事業への本格参入が可能になります。NHKが計画しているのは,過去に放送した番組をブロードバンドインターネット経由で視聴者に提供する「アーカイブス・オンデマンド」というサービスです。見逃した番組や録画し忘れた番組を,好きな時に視聴できるようになります。

 NHKは2008年度のできるだけ早い時期にサービスを開始するため,現在急ピッチで準備を進めています。NHKのサービスが始まれば,IPTV市場を拡大する起爆剤になるでしょう。

地上アナログ放送の終了に全力

 地上波放送業界の最大のテーマは,「視聴者を混乱させずに,アナログ放送を2011年7月24日までにいかにして終了させるか」です。総務省や放送事業者,家電メーカーなどが,オールジャパン態勢で取り組んでいます。

 地上デジタル放送チューナーを内蔵したデジタルテレビは順調に売れていますが,アナログ放送の終了までにすべての視聴者がテレビを買い替えられるとは限りません。そこで総務省などの関係者は,やむを得ない事情でデジタルテレビを購入できない視聴者に対する支援制度を導入する予定です。

 また,全国一斉にアナログ放送を終了させたときの混乱を防ぐため,可能な地域から段階的に終了させる案が浮上しています。それでも最終的に地上デジタル放送波が届かない,離島や過疎地などの条件不利地域に住む視聴者に対しては,放送衛星(BS)を使った再送信サービスを提供する計画です。こうしたアナログ放送からデジタル放送への円滑な移行計画は,2008年8月末までにまとまる予定です。

“融合法制”の制度設計も本格化

 2008年には,制度面でも大きな動きがあります。総務省の研究会が2007年12月6日に公表した最終報告書で示した「情報通信法」(仮称)の実現に向けた取り組みです。

日経ニューメディア
通信・放送ビジネスの最前線を"速く""深く"お届けする専門ニューズレター。毎週月曜日発行

 この新法は,通信・放送分野で縦割りになっている現在の九つの法制度を,「コンテンツ」と「プラットフォーム」,「伝送インフラ」という三つのレイヤー(階層)別に再編するものです。利用者の保護や表現の自由などを保障したうえで可能な限り規制を緩和し,通信と放送の垣根を越えた事業を推進しやすくするのが狙いです。

 総務省は2010年の通常国会に,この通信・放送融合法案を提出することを目指し,2008年1月中に法案の制度設計作業を開始します。このように2008年は,メディア融合時代に向けて放送のビジネスモデルが大きく変わるきっかけの年になるでしょう。