日経Linux 編集長
田島 篤
日経Linux 編集長 田島 篤

 エンタープライズICT領域でのLinux/OSSについて,過去2年の年初の“大胆予測”を振り返ると,「企業システムの構成要素として十分に認知される2006年」,「本格普及期を迎えてサポート・サービスが焦点になる2007年」と位置付けてきました。

本格普及の流れは止まらないが…

 2008年も,エンタープライズICT領域でLinux/OSSの利活用が進む動きは変わりません。2005年ぐらいからの顕著な動きである(1)大規模サーバーへの対応,(2)仮想化機能の強化,(3)サポート・サービスの拡充,は今年も続きます。具体的には,(1)に関してはLinuxカーネルのマルチコアCPU対応の強化,(2)についてはXenでの完全仮想化の実用化や実運用時の作業負荷軽減を狙った管理機能の強化,などが2007年末から進んでいます。(3)について2007年には,日本オラクルによるLinuxサポート開始やレッドハットによるISVを対象とした新サービス開始などの動きがありました。Linuxと組み合わせて使うOSSに対する構築・保守サービスも依然として拡大基調にあります。こうした傾向は2008年も続き,Linux/OSSの本格普及を支える見込みです。

 今年の注目ポイントとして触れておきたいのが,Linux/OSSをターゲットにしたサポート・サービスの競争激化と,日本では2008年4月に登場予定の「Windows Server 2008」の影響です。Linux/OSSサーバー向けビジネスの展開では,サポートを含む各種サービスの品質向上が,競争激化およびWindows Server 2008の影響を乗り切るためのカギを握るでしょう。

デスクトップLinuxの時代が到来!

 ここまでは,Linux/OSS動向の既定路線を確認したに過ぎません。2008年に向けての大胆予測は,“デスクトップLinux”の到来です。

 8年前の日経Linux創刊当時からの読者には「またか」と思われるかもしれません。確かに創刊以来,何度かデスクトップLinuxの実用化を報じてきました。GNOMEやKDEといった統合デスクトップ環境やオフィス・ソフトOpenOffice.orgが実用に値する時期(それぞれ2003年ごろと2005年ごろ)を迎えたときにもクライアントでのLinux利用が広がることを期待しました。しかしながら,着実に普及してきたサーバー分野とは違い,デスクトップ分野では堅牢な“Windowsの壁”に普及を阻まれてきました。

 2008年にはこうした状況が大きく変わる可能性があります。その兆しは,SaaSの拡大やシンクライアント導入の本格化に見ることができます。

 SaaSをネットワークを介してアプリケーションを提供するサービスという広い意味でとらえれば,例えば,米Googleが提供するGoogleドキュメントもその1つといえるでしょう。オンラインで,ワープロや表計算を使え,クライアントOSは問いません。Linuxでも構わないわけです。こうした動きはLinuxディストリビューションに既に反映されています。2007年11月に公開された「Fedora 8」にはGmailやGoogleカレンダーの機能をデスクトップから簡単に呼び出して使えるオンライン・デスクトップ機能が搭載されています。

 Linuxのシンクライアントへの対応も進んでいます。例えば,「Red Hat Enterprise Linux 5」では,Linuxクライアントの管理負担を軽減できるStateless Linux機能の開発が進んでいます。

日経Linux
Linux/OSSを活用するための実践情報誌。毎月8日発売

 企業システムにおけるWebアプリケーションの比重が高まるにつれて,クライアントOSがWindowsでなければならない必然性は低下しつつあるといえるでしょう。2003年ごろの統合デスクトップ環境の実用化,2005年ごろのOpenOffice.orgの台頭に続く三度目の正直で,2008年こそデスクトップLinuxの普及元年になり得るのではないでしょうか。

 日経Linuxは,Linux/OSS(オープンソース・ソフト)の最新動向と実践活用情報を提供している月刊誌です。2008年1月号にて創刊100号を迎えることができました。最後になりましたが,読者の皆様および開発コミュニティの方々に厚くお礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い致します。