日経SYSTEMS 編集長
杉山 裕幸
日経SYSTEMS 編集長 杉山 裕幸

 いきなり断言するが,2008年も情報システムのトラブルは減らないだろう。単純に考えて,減るわけがないのだ。システムの新規開発,再構築,機能追加。あちこちでこれらの案件が生まれ続ける。どんなにみんなが苦労してこなしたとしても,確率的にトラブルが発生する可能性のある場所は増えるばかり。しかも情報システムは大規模化,複雑化が進んでいる。つまり,今後も世間を騒がすようなシステムトラブルは相次ぐ。残念ながら。

品質は上流から作り込む

 さて,どうすべきか。トラブルが減らないからといって,何もしないのも無責任である。事前,事後の対策どちらも大切だが,やはり災いはもとから断ちたい。そこで,これから注目したいアプローチが二つある。システム開発における「上流からの品質の作り込み」と「自動化/工業化」である。

 上流からの品質の作り込みとは,文字通りシステム開発の上流から各工程で成果物の品質を確保することだ。いま,短納期化の流れでテスト工程がしわよせを受けている。時間もないのにテスト工程ですべてのバグをつぶし,品質を上げようとしても無理がある。その結果,不備だらけのシステムが“完成”。本稼働後に火を噴く。

 ならば,後から帳尻を合わせようとはせず,もっと前の段階から品質を作り込んでいこう。実際,こうした問題意識を持つ人は多い。日経BP社は2007年春に開催した「ソフトウエア品質向上セミナー」で来場者にアンケート調査した。「ソフトウエアの品質向上のどんな点に課題を感じているか」という問いに対し,回答者281人のうち実に半数以上の150人(53.4%)が「上流からの品質の作り込み」と答えた。心強いデータである。これが最も多く,第2位は「開発のスピードアップと品質の両立」(48.8%)だった。

 トヨタ生産方式を知っている方なら「品質は工程の中で作り込む,後工程はお客さま」が常識だろう。ところが,同じ“ものづくり”といえるシステム開発の現場は非常識がまかり通っている。「分かっちゃいるけどウチではできない」というのが実情か。

自動化に積極的に取り組む

 それでも明るい兆しはある。富士通アプリケーションズの取り組みが一例だ。「ものづくりに徹底的にこだわるプロ集団を目指している」と渡辺純社長自らが語るように,同社は緻密な“見える化”などトヨタ生産方式をシステム開発に導入し,成果を上げている。こんな会社がもっとあっていい。

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 上流工程からきちんとものづくりを進めていくとなると,必然的に「自動化」や「工業化」につながる。プロセスを標準化して属人的な部分を排除し,自動化できるところは自動化する。そして「本当に人でなければできないところに人が専念する」(前出の渡辺社長)。システムトラブルの原因の多くはヒューマンエラーである。自動化,工業化を進めれば,単純ミスだけでもどれだけ減らせることだろう。

 「上流からの品質の作り込み」と「自動化/工業化」は,いずれもシステム開発/運用の現場が強くないと真の実現は難しい。2008年はぜひとも,みんなで“現場力”を高めてシステムトラブルへの警戒に当たろう。