日経コミュニケーション 編集長
松本 敏明
日経コミュニケーション 編集長 松本 敏明

 日本の通信業界の2008年は,これまでの進化の道筋から,大きくその方向を変える1年となるかもしれない。そのきっかけとなるのが,3月にNTT東西地域会社が商用サービスを開始するNGN(次世代ネットワーク)である。

 NGNを一言で説明すると,通信事業者が構築を進めている新型の通信ネットワークのこと。加入電話をはじめとする固定通信と携帯電話に代表される移動通信を一つのIPインフラに統合。様々な機器の接続を前提として,大容量で通信品質の確保やセキュリティの維持が可能なネットワークとなる。

個人も企業もネット環境が一変

 このインフラの利用により個人ユーザーは,テレビ電話やパソコンなどをつないだデータ通信に加えて,通信インフラ経由のテレビ視聴が可能になる。ゲーム機などの端末がこのネットワークにつながることで,全く新しいサービスが出現する可能性もある。

 企業ユーザーは高品質でセキュリティを維持でき,それでいて使い勝手に優れたネットワーク・インフラを利用できる。従来使っていた専用線やVPN(仮想閉域網)などとは異なる,新しい選択肢となるかもしれない。

 NTTだけでなくKDDIもソフトバンクも2010年ころを目指してそれぞれのNGN構築を進めている。2008年はNGNが実現する将来に向け,通信にかかわるあらゆる技術やサービスが照準を合わせる1年となるだろう。

 ただ2008年にサービスが始まるのは,NGNの全体像のうちほんの一部分。提供エリアは限定的で,NTT東西が運営している「フレッツ網」の後継として,固定通信からスタートを切る。まずはスモール・スタートとなるが,その動きからは目が離せない。

フェムトセルが導く携帯/固定の融合

 NGNによる統合を控え,これまで別々に扱われていた携帯電話と固定電話の融合が2008年には加速する。この動きを先導するのが,家庭やオフィスに設置する小型基地局「フェムトセル」である。

 この基地局を使うと,ユーザーは携帯電話1台ですべての電話サービスを利用できる。ブロードバンド回線を使って携帯電話網とつなぐと事業者のインフラ構築コストが下がるため,通信料金の低廉化も期待できる。いわば携帯電話による固定電話の置き換えという大変革を実現できるのだ。ただしフェムトセルの実用化のためには,規制緩和を含む法制度の整備が欠かせない。実際のサービス内容は法制度次第で変わるため,2008年に進む議論を見守る必要がある。

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国内外の通信・ネットワークの最前線を伝える,企業ネットワークの総合情報誌。毎月1日・15日発行

 NGNへのアクセス回線の主役となるのは大容量の光ファイバ。2007年秋にNTTは当初の目標を修正し,2010年度に2000万回線を提供するという目標を改めて設定した。この光ファイバを巡る制度の見直し議論が,2008年初めに決着する。NTT東西の光ファイバ貸し出し料金が下がると,利用者数の増加が加速する可能性がある。

 並行して携帯電話を使うデータ通信の高速化も進展。有線のブロードバンド並みの数メガクラスの通信が,定額料金で利用できるようになる。さらに2009年ころに商用化するモバイルWiMAXが加わると,ユーザーの選択肢はいっそう広がっていく。