PMOは教訓を生かしたプロジェクト運営を行い,そこで得た教訓をほかのプロジェクトにフィードバックする責務を負う。しかし,教訓の活用・蓄積が現場に定着しているとは,お世辞にも言いがたい。今回と次回の2回にわたり,この問題に対する具体策を解説する。今回は,教訓の「活用」に焦点を当てる。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー


 PMBOKガイド(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)には,9つの知識エリア(統合,スコープ,タイム,コスト,品質,人的資源,コミュニケーション,リスク,調達)があります。そのすべての知識エリアにおいて,一貫して述べられていることがあります。

 PMBOKを通読なさった方はお分かりだと思いますが,それは教訓の活用,および教訓の蓄積です。『第21回 プロジェクト運営の「失敗学」』でも解説したように,プロジェクト運営の中でPMOは「良い失敗」から教訓を学び,「悪い失敗」を発生させないという重要な役割を担っています。

 このプロセスの大切さは皆さんご理解なさっていると思いますが,システム開発の現場においては,教訓の活用・蓄積がなかなか定着できていないのが実情ではないでしょうか。「失敗から教訓を学び,蓄積して活用せよ」と一言で言っても,具体的にどうすればいいのか,PMBOKを読んでも具体的な答えは書いてありません。そこで,今回と次回にわたって,PMOとして何を考え,どのように行動すべきなのかを述べていきたいと思います。

何のために教訓を蓄積するのか

 PMOには進捗管理,課題管理,リスク管理など,プロジェクト運営における重要な仕事が多くあります。PMOがこのようなプロジェクト管理をしっかり行えば,プロジェクトが成功する確率は高くなります。

 しかし,そのプロジェクトが終わり,反省も総括もしなければ,そこで得られた経験や教訓はそのメンバーの個人の中ににしか蓄積されません。あるプロジェクトで大小さまざまな失敗を経験したとしても,そこでの教訓はほかのプロジェクトには生かされず,当然ながら同じような失敗を繰り返す確率が高くなります。それは,会社全体から見ればとても非効率です。

 PMOのミッションの1つは「プロジェクト関係者の調整を行うこと」ですが,それはプロジェクト内で閉じた話と考えるべきではありません。PMOは,プロジェクトをまたがった横断的な活動を行う組織なのです。蓄積された教訓を活用し,得られた教訓をさらに蓄積・昇華していくことは,PMOの一番大きな組織貢献活動だと言っても過言ではありません。PMOのメンバーが,参画プロジェクトの成功のために貢献するのは当然ですが,「将来のプロジェクトを成功に導くための貢献も必要」という視点で行動できれば,これほど会社にとって素晴らしい組織はありません。

教訓を活用・蓄積する7つのプロセス

 ではPMOとして具体的に,教訓をどうやって蓄積・活用していけばよいのでしょうか。下記の,「教訓の活用と蓄積のサイクル」をご覧ください。(1)は教訓の活用プロセス,(2)~(7)は教訓の蓄積サイクルを表しています。まずは,教訓の活用プロセスから考えてみましょう。

図●教訓の活用と蓄積サイクル
図●教訓の活用と蓄積サイクル