2007年はWeb制作の現場でどのような話題が注目を集めたのか。ITpro Strategic Web Design編集部の面々が,サイトに掲載した記事から注目話題をピックアップしました。読み逃した記事の再チェックや,今年の総括にお役立てください。

Strategic Web Design編集部
司会: 中條 将典(ITpro副編集長) / 真島 馨(コンピュータ・ネットワーク局プロジェクト推進部) / 中野 淳(日経パソコン副編集長)/ 矢野 りん(ライター)

中條:2007年もいよいよ大詰めです。というわけでこの1年のWeb制作シーンを振り返ってみたいと思います。

真島:では私から。2007年最大の話題は,アドビシステムズの「Adobe AIR」とマイクロソフトの「Silverlight」といった最新のRIA(Rich Internet Application)技術が登場したことだと思いますね。これで「脱ブラウザ」「beyondブラウザ」というキーワードが現実のものになってきました(「ブラウザからデスクトップに回帰するアプリケーション」)。

中條:もはやブラウザ上で動くアプリケーションは時代遅れということですか?

真島:必ずしもそうとはいえません。Flashムービー作成フリーソフト「SUZUKA」の記事もよく読まれているんです(「Flashムービー作成フリーソフト「Suzuka」が公開」)。確かに新しい技術は出てきているんですが,まだ多くの方の関心はFlashにあるのも事実です。

図1:SUZUKAの開発環境の画面

2007年第1四半期:Windows Vistaの登場がアプリやサイトに与える影響

中條:年初から辿ると,マイクロソフトが,コンシューマ向けに2007年1月の終わりにWindows Vistaをリリースしましたね。Vistaの新UI技術,WPF(Windows Presentation Foundation)は今後のアプリケーション構築に影響を与えそうです。

真島:その事例として,旭山動物園の記事が印象的でした(「旭山動物園,Vistaの新機能を利用したWebサイトを公開」)。

図2:旭山動物園のWebサイト

中野:WPFはWebデザインの現場にどんなインパクトがありましたか?

矢野:デスクトップ版のアプリケーションの場合,ビジネスモデルが確立されないと,いくらWPF技術があっても仕事としてどういう形が発生するのかがまだ見えない状態です。ローカルでビジュアルなアプリケーションが動くことに優位性があるとは思いません。販売促進が目的の情報公開ならブラウザの中だけでも可能だからです。WPF技術の概要を理解しようという方は多いと思いますが,仕事の面ではまだあまり切実ではないでしょう。

真島:なぜ今,WPFやSilverlight,AIRなどのUI技術に注目が集まるんですかね?

中條:SilverlightやAIRといった技術はUIデザインの質を向上させる面もありますが,むしろクロスプラットフォームが鍵になると思います。ブラウザとデスクトップの境界があいまいになっていくということです。マイクロソフトはSilverlightで「デスクトップ・アプリケーションと同じようにWebアプリケーションが作れる」ということを,アドビシステムズのAIRは「デスクトップ・アプリケーションもFlashのようなWebコンテンツと同じように作れる」ということを示したのではないでしょうか。アドビはAdobe Max Japan 2007でこの点をアピールしていましたね。OSに対する依存性がなくなって,仮想マシン上で何でもなんでもできるようになる。そういった動きが企業サイトにとっては重要でしょう。

真島:なるほど。

矢野:Web制作業界では,アプリケーションの開発よりもむしろガジェット(ウィジェット)に関心が向いているように思いますよ。

真島:じゃあ2007年は「ガジェット元年」だったんですか?

矢野:そうですね。これから2008年に向けて,Googleガジェットをはじめとして,各種ブログパーツとしてのガジェット,Vistaのガジェットなど,ひと口サイズの様々な情報をユーザーの都合で取捨選択するコンテンツが伸びるでしょう。コンテンツ制作者の仕事としても定着するでしょうね。

Vista + IE7でレイアウトが崩れる問題が顕在化

中野:ところでVista登場にともなって,WebサイトのVista対応を考える必要が出てきました。Vistaになって標準搭載のInternet Explorerがバージョン7になり,既存のWebページのレンダリングに問題が発生する場合があるからです。富士通は早い段階でその問題に対応を図っています(「パソコンメーカーの威信に懸けVista/IE7に対応--富士通」)。

図3:富士通のWebサイト

 今はまだVista+IE7でサイトを見ているユーザーはそう多くありません。でも実際に確認してみると,IE7の拡大機能を使った際にレイアウトが崩れたり,文字が重なったり,あるいはリンクする位置とリンクされるテキストの位置がずれるサイトが目立ちます。現在,多くの企業がこの問題を抱えていて,2008年にはそれが顕在化する恐れがあります。

真島:それは純粋にIE7の問題なんですか?

中野:いろいろな側面があるようです。一つは,CSSの解釈の問題です。IE6とIE7ではCSSの解釈が違います。現在の主流のIE6が対応しているCSSは古くて,こちらにレンダリングのクセがある。制作側は試行錯誤でIE6に対応させていますが,この工夫が逆にIE7での不具合につながっています。それ以外にVistaの環境でフォントの字形が変わったり,文字のサイズが微妙に変わったりする現象があって,XPに合わせて作っているとVistaで見たとき文字の見え方が変わることがあります。