総務省は11月30日,日本通信とNTTドコモの相互接続紛争に対する総務大臣の裁定結果を公表した。裁定は,エンドエンド料金の設定や帯域幅に応じた課金など,日本通信の主張をほぼ認める結果となった。両社の協議が進んで日本通信がサービスを開始すれば,これに追随する動きが加速しそうだ。

 日本通信は,携帯電話事業者から設備を借りるMVNO(仮想移動体通信事業者)としてデータ通信サービスを展開するため,2006年12月にNTTドコモにネットワークの相互接続を申請していた。その後,NTTドコモとの協議が不調に陥ったため,2007年7月に総務大臣の裁定を申し立てていた。

裁定では協議の手順まで指示

 日本通信が申請したのは,(1)NTTドコモの設備を利用する部分はNTTドコモがサービスの内容や運用を決められるとする主張に合理性はあるか,(2)料金設定権はどうすべきか,(3)接続料は帯域幅課金とすべきか,(4)接続料はいくらにすべきか,(5)相互接続に当たって生じる設備の改修費などにどう対処すべきか──の五つだった(図1)。

図1●日本通信がNTTドコモとの相互接続に関して総務大臣の裁定を申請していた内容と総務大臣の裁定結果
図1●日本通信がNTTドコモとの相互接続に関して総務大臣の裁定を申請していた内容と総務大臣の裁定結果
日本通信の要望をほぼ認める裁定となった。裁定しなかった項目についても,両社で今後協議する際の判断基準を示した(カッコ内)。
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 このうち(2)の料金設定権は,日本通信とNTTドコモが分担して料金を設定する「ぶつ切り料金」ではなく,日本通信が料金を設定してNTTドコモに接続料を払う「エンドエンド料金」とするのが適当,(3)の接続料は「従量制課金」ではなく,帯域幅による定額制課金が適当という裁定を下した。これらは「競争促進」と「利用者利益」,「電気通信の健全な発達」の三つの観点から判断したもので,日本通信の主張をほぼ認める結果である。

 上記以外について総務大臣は裁定を下さなかったが,両社で協議する際の判断基準を示した。例えば(1)のサービス内容や運用は,「『日本通信が一方的に強要できるものではないが,NTTドコモの主張は合理的ではない』という認識で協議すべき」とする。

 協議の難航が予想される(4)の接続料は,「能率的な経営の下で適正な原価に適正な利潤を加えたもの」という前提を示し,NTTドコモは算定根拠の具体的なデータをできるだけ開示すべきとした。(5)の改修費の負担は「接続要求に伴う追加コストなので原則として日本通信が応分負担すべき」とする一方,NTTドコモは費用の内訳をできるだけ開示して金額の妥当性を検証するための客観性を確保すべきという判断である。さらには「開発方法や開発期間の検討は,関連開発の委託先の技術者を含め,技術開発部門を関与させて迅速化を図るべき」など,協議の具体的な手順まで指示している。

MVNOの新規参入の道開く

 両社が今回の裁定を基に改めて協議を進め,日本通信がサービスを始められれば,これに追随する動きが広がるだろう。日本通信との接続形態は,NTTドコモの接続約款に反映されるため,ほかの事業者もNTTドコモに相互接続を申請しやすくなるからだ。日本通信がNTTドコモの接続約款にない相互接続を申請したため紛争に発展したが,接続約款に記載されれば以後はスムーズに協議が進むと予想される。

 総務省は今回の裁定内容を「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」に反映する予定である。2007年度内に同ガイドラインを改正する予定で,その際にはモバイルビジネス研究会で議論したMVNOの新規参入促進策も盛り込む。MVNOによる新規参入の道筋は確実に開かれつつある。