“強敵と書いて「とも」と読む”──いったい,何のことかと思われるかもしれない。

 いま,中国,韓国,マレーシア,ベトナムといったアジアの国々は,ソフトウエアの品質や信頼性を向上するためのエンジニアリングやテスト技法の研究,習得に真剣に取り組んでいる。日本のオフショア先=下請けという発想から脱却するためだ。

 国際ソフトウエア・テスト資格認定委員会(ISTQB:International Software Testing Qualifications Board)のアジア・メンバーである日本,中国,韓国が中心になって運営しているASTA(Asia Software Testing Alliance)という組織がある。各国のソフトウエア・テストに関する知識やノウハウを共有して,アジアにおけるテスト技術と品質の向上を図ろうというものだ。

 2007年10月には韓国で,ASTAによる初の国際コンファレンス「ASTA International Software Testing Conference 2007」が開催された。日中韓のほかにインド,イスラエル,米国,ノルウエー,デンマーク,フランスといった国々から講演者が集い,アジアからの多数の参加者でにぎわったようだ。

 その背景には,オフショアやグローバル・ソーシングなどにより,国をまたいでコードをやり取りする機会が増えており,以前にもまして,ソフトウエアのテスト効率や品質の向上が求められるようになったことが挙げられる。特に,マレーシアやベトナムといった国々では,日本や米国などからのアウトソーシングを大きなビジネス・チャンスととらえており,国際レベルのテスト技法や知識を吸収するために,こうしたコンファレンスに積極的に参加しているという。

 アジアはいま,ソフトウエア・テストで盛り上がっているのだ。

 日本の開発者/技術者は,日々の仕事に追われて,自分のための学習やスキルアップに割く時間がますます減っていると聞く。しかし,こうしたアジアの勢いを肌で感じれば,きっと良い刺激になるのではないだろうか。そのための,うってつけの機会がある。

ソフトウエアテストシンポジウムに注目

 この欄の読者であれば,「ソフトウエアテストシンポジウム」(通称JaSST:Japan Symposium on Software Testing)というイベントをご存じの方は多いだろう。非営利活動法人ソフトウエアテスト技術振興協会(ASTER)のメンバーが実行委員となって運営している,ソフトウエアのテスト,レビューなど品質,信頼性に特化したイベントだ。

 毎回基調講演に,Tom DeMarco,Rex Black,Ed Yourdonといった業界のビッグネームを招待するなど,非常に見どころの多いプログラム,セッションで構成されている。出版社やベンダー/メーカーが主催するものとは異なり,PR的な色合いがほとんどない,開発者主体のイベントである。2003年の初開催(来場者:約200人)以来,毎年来場者が増え続け,2007年1月に開催したJaSST'07 東京では1500人もの方々が来場した。

 そのJaSSTが来月,2008年1月30日~31日に東京都内で開催される(ソフトウエアテストシンポジウム 2008 東京)。その目玉企画の一つとして,ASTA in 2008 Tokyoというセッションがある。中国,韓国,マレーシア,ベトナムから招いたテスト実務者が講演を行うというものだ。アジア諸国の勢いを直接感じることができるチャンスだ。

 実は,冒頭にあげた“強敵と書いて「とも」と読む”は,このセッションのキャッチフレーズである。なるほどアジアの国々は今後,日本のソフトウエア業界にとって強敵になるに違いない。一方で,開発者レベルでは友好な関係を築き,互いに情報交換できるほうが良い。それによって,アジア全体のテスト技術や品質水準が高まるのが望ましい。もちろん個人的には,日本は強敵に負けることなく,常にアジア諸国のリーダーであってほしいと思う。いずれにせよ,ASTA in 2008 Tokyoは一見の価値があるセッションと言えよう。

 JaSST'08 東京の見どころは,ASTAのセッションだけではない。今年の基調講演は,ソフトウエアの計測や見積もり分野の第一人者で,『ソフトウエア開発の定量化手法』(構造計画研究所 発行)などの筆者として知られるCapers Jones氏である。また,系統技術研究所の菅野 文友氏の招待講演も,JaSSTならではの企画だ。ソフトウエアの信頼性技術に大きな功績を残してきた方であり,ベテランの開発者なら“あの菅野氏か?”と思い当たる人もいるだろう。その他の内容については,Webサイトで確かめて欲しい。

 ところで,こんな記事を書くと「きっと日経BPがこのイベントに大きく関わっているに違いない」と思われるかもしれない。そんなことはないと明言しておく(ブースで書籍や雑誌を販売するぐらいの関係はあるが)。

 先にも書いたが,ASTERという開発者/技術者主体の非営利団体(もともとはソフトウエアテスト技術者交流会というコミュニティだ)が,これだけのイベントを毎年継続して行っていることを,正直スゴイと思う。あまり派手に宣伝されないので,知る人ぞ知るイベントになっているが,セッションの内容や講演者を見れば興味深いものが多いことがわかるだろう。

 また,JavaやRuby,XPといった特定の言語や開発手法ではなく,テスト/品質というソフトウエア開発全般に共通するテーマのイベント,という点にも価値がある。コミュニティ系の近寄りがたい雰囲気もなく,かといって商業色もなく,なんとなく“通(つう)”好みのイベントである。

 本当かどうかは,その目で確かめていただきたい。

■変更履歴
本文でテスト技術者協会としていましたが,正しくはソフトウエアテスト技術者交流会です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/12/17 12:42]