今年10月に沖縄で開催された日本高血圧学会で、2種類の降圧薬の効果を直接比較した臨床試験「FUJIYAMA STUDY」の最終結果が報告された(日経メディカル オンラインで既報)。この臨床試験の特徴のひとつは、データ収集の手段として医療ITを用いたこと。テレメディスン(遠隔医療監視)を導入し、患者から家庭血圧値を直接送信する方式を採用した。これにより、治験参加医の負担軽減と計測値の迅速な収集が実現したという。システム開発の指揮を執り、治験責任者を務めた埼玉医科大総合診療内科教授の中元秀友氏に、テレメディスン・システム開発の経緯と今後の展望について聞いた。(聞き手は、中沢 真也=日経メディカル別冊)

FUJIYAMA STUDYに使ったシステムの概要を教えてください。

PHSのデータカードを装着した「d-converter」と血圧計を接続した状態
PHSのデータカードを装着した「d-converter」(右)と血圧計を接続した状態

中元 「d-converter」と呼ぶ小型のコンピューターボックスにPHSのデータカードを装着しており、ボタンを押すだけでデータを送出できます。PHSの電波が届かないところでも電話回線に接続して送れるようにしてあります。

 このd-converterには、血圧計、血糖計、万歩計などを接続することができます。体重、体脂肪率、血糖値などに異常値が出ると指定したところにメールが送られるようになっています。

 非常に簡略化してあり、データもすべて患者さん側で入力されますので、臨床試験に参加した先生方に入力してもらったのは外来血圧と服薬状況だけ。簡単にしたため、参加者も集めやすかったと感じています。こういうシステムを使うと患者さん自身も楽だと思います。

テレメディスン・システム開発の経緯を教えてください。

中元 1999年に家庭腹膜透析(CAPD)の管理に導入したのが最初です。90歳の女性の家族から、『家でCAPDをしたい。装置を装着して透析を始めるまでは(家族で)できるが、透析中の管理は無理なので何とかしてもらえないか』、という相談がありました。

 患者さんのCAPD装置と体重計、血圧計からのデータを転送し、医師側でそれをモニターしながら透析を進める。臨床医にとっても夢ですよね。このような手法が10年くらい先には一般的な医療になるはず。それを先にやってみようということで、独自のシステムを作りました。

 血圧、心拍数、除水量、体重を監視して緊急時に対応でき、患者さんとビデオカンファレンスもできるシステムです。実際に5人くらいの患者さんに対応して構築し、4年間継続した症例もありましたが、費用が高かったのと、ISDN(64k~128kビット/秒)があまりに遅く、ビデオカンファレンスは現実的ではありませんでした。

 患者1人当たり400万円くらいかかるため、どこも買ってくれず、コストがかかる割には収益性が悪いために企業の協力も得られず、結局、実用化はまだ早いだろうということになりました。

 そこで次に考えたのが、携帯電話を利用した「バージョン 2」です。携帯電話なら高齢女性でも使える。無理に自動化しなくても、除水量などは患者自身に入力してもらえばいいではないかという発想です。NTTドコモと連携をとり、iモードのソフトをダウンロードして、ログイン番号とパスワードを入力すると、血圧手帳やCAPD手帳が出来上がるという仕組みです。

自動化の行き過ぎと高コストを反省してシンプルにしたということですね。

埼玉医科大総合診療内科教授の中元秀友氏
埼玉医科大総合診療内科教授の中元秀友氏

中元 携帯の画面に「データ入力」「データ保存」「ドクターへ連絡」という項目が表示され、症状やデータを入力できます。中央サーバーに「自己カルテ」を作って患者さんが入力すると医師の側で閲覧できます。患者さんも、必要なら携帯電話でいつでも自分のデータを確認できるほか、経時的な変化や平均値も確認できます。急に値が高くなった場合などには、指定した宛先に警告メールを送信する機能もあります。

 CAPDは国内の患者数が1万人程度と少ないことから、このようなシステムの応用には、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の方が適しているのではないかという考え方から、「生活習慣病i手帳」実現を目指しました。