前回は,JALにおける労働組合への不適切な情報提供が損害賠償請求訴訟へと発展したケースを取り上げた。この問題には第89回でも触れたが,個人情報を取り扱う業務では,正規雇用者に加えて,パート・アルバイト,派遣社員,契約社員,委託先社員,個人請負など,様々な契約・雇用形態のスタッフが関わるのが当たり前になっている。今回は,多様化する就業形態の観点から,個人情報保護対策について考えてみたい。

販売代理店スタッフの不正検索が発覚したNTTドコモ関西

 2007年12月4日,NTTドコモ関西は,販売代理店であるパナソニック・テレコムの元スタッフがドコモショップ草津駅前店において業務中に不正検索し,顧客の住所などの情報を社外に情報漏えいさせていたことを発表した(「滋賀県内の販売代理店におけるお客様情報の漏えいについて」参照)。

 2006年8月29日に契約者から住所などの情報漏えいの指摘があり,ドコモ関西の顧客情報管理システム上で検索記録をチェックした。その結果,ドコモショップ草津駅前店の元スタッフが契約者情報を同年8月26日に検索をしていたことが判明したという。その後2007年2月2日に,ドコモ関西は不正競争防止法違反で元スタッフを告訴したが,12月3日になって東京地検より不起訴(起訴猶予)処分とする旨の通知を受けている。

 ドコモ関西やパナソニック・テレコムのプレスリリースでは「元スタッフ」となっているが,新聞報道を見ると,パナソニック・テレコムに窓口業務担当として派遣された社員のようだ。正社員であれ派遣社員であれ,契約者に対して電気通信事業法及び個人情報保護法上の責任を負うのはドコモ関西である。最近の食品偽装表示事件では,パート従業員に責任を押し付けようとした経営幹部が話題となったが,個人情報保護法ではそのようなことは許されない。物理的・技術的対策以上に,契約・雇用形態の枠を超えて,経営及び現場が一体となったチームワーク強化が求められる。

ドコモ各社の失敗経験をバネにしたチームワーク再構築が鍵に

 NTTドコモグループでは,過去にも,販売代理店,外部委託先,派遣社員など,様々な契約・雇用形態のスタッフが関わる個人情報漏えい事件が発生している。

 第76回で取り上げたように,NTTドコモの販売代理店であるテレコム三洋新潟支店の社員が2006年9月25日に事務所移転準備の作業中,駐車場で車上荒らしの被害に遭い,顧客情報3万8483件を含む経理処理用資料を保存していたUSBメモリーが盗まれた。NTTドコモはこれを2006年10月4日に公表している(「新潟市内の販売代理店におけるお客様情報の盗難に関するお詫びとお知らせ」参照)。

 個人情報保護法の本格施行前の2005年4月21日には,NTTドコモの業務委託先会社の社員が,威力業務妨害罪の容疑で警視庁に逮捕されたことがある。事件の概要は,中越地震の被災地域について料金減免措置を行った顧客リストの一部と,2004年12月1日から23日にFOMAデータ通信でナビダイヤルを利用した関東甲信越の顧客リストからユーザーの個人情報2万4632件が流出したというものである(「お詫びとお知らせ」,「本日(2005年4月21日)の報道についてのお詫び」参照)。

 またNTTドコモ東海では2005年11月10日,販売代理店の静岡県内のドコモショップにおいて,スタッフが自宅で使用している個人所有のパソコンがコンピュータウィルスに感染し,その中に保存されていた来店者の情報93件,法人の情報207件がファイル交換ソフトを通じてインターネット上に流出したことを公表している(「お詫びとお知らせ)」参照)。

 NTTドコモ九州では,北九州支店に勤務していた元派遣社員が2004年9月28日,詐欺幇助の疑いで警視庁に逮捕された。容疑は,元派遣社員が2003年4月から6月まで同社北九州支店に勤務した際,支店の地下倉庫に保管していた契約申込書のクレジットカード番号等を書き写し,インターネットオークションの詐欺グループに売り渡していたというものである(「個人情報の流出事案に関する株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ九州に対する措置」参照)。

 NTTドコモグループでは,顧客サービスの充実・強化,意思決定の迅速化および経営の効率化を行うため,ドコモおよび地域ドコモ8社で行っている現在の事業運営の体制を,2008年度第2四半期を目途にドコモに統合することを発表している(「NTTドコモグループにおける事業運営体制の見直しについて」参照)。個人情報保護対策についても,ドコモ各社での失敗経験をバネに,契約・雇用形態の枠を超えたチームワークを再構築・維持できるかが鍵となるだろう。

 次回も,引き続き多様化する就業形態の観点から考えてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/