最終回は、インドのITベンダー最大手6社“SWITCH”の「H」であるエイチシーエル(以下HCL)・テクノロジーズを取り上げる。HCLは、2006年度(6月期)に前年度比42.4%増の13億9000万ドル弱を売り上げた。1987年創業の同社は、93年から日本市場にも進出している。組み込む分野での強さをテコに、エンタープライズ分野での足場の確保を急ぐ。

IBMやサンよりも早かったハード開発

 HCLの親会社であるHCLエンタープライズは、シブ・ナダール会長が76年8月11日、約2万ドルを元手に5人の仲間と創設した。現在、HCLエンタープライズは傘下に2つのITベンダーを持つ。1つがHCLテクノロジーズであり、ITサービスやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を受け持つ。もう1社は、パソコンやサーバー、ネットワーク機器を製造・販売するHCLインフォシステムズだ。

 ガレージを店舗兼工場にして起業したHCLは、マイクロ・コンピュータを78年に開発。HCLによれば、それは「米アップルのコンピュータ開発と同時期であり、米IBMがパソコンを発表する前より3年早い」という。98年にはマルチプロセサのUNIX機を開発し、「米サン・マイクロシステムズや米HP(ヒューレット・パッカード)より3年も先駆けていた」とする。現在、HCLインフォシステムズはインドにおけるパソコン出荷台数でトップを走っている。

航空、半導体設備など組み込み系に強み

インド本社で日本・中国・韓国のオペレーションを担当するサダゴパラマヌジャム・セルワタラス氏。2000年から日本法人社長を兼任する。母国語のタミル語のほか、日本語、英語、ロシア語、フランス語などを自由に操る
写真●インド本社で日本・中国・韓国のオペレーションを担当するサダゴパラマヌジャム・セルワタラス氏。2000年から日本法人社長を兼任する。母国語のタミル語のほか、日本語、英語、ロシア語、フランス語などを自由に操る

 こうした生い立ちもあり、HCLテクノロジーズは組み込み分野に強みを持っている。インド本社で日本・中国・韓国地区を担当し、日本法人社長を兼任するサダゴパラマヌジャム・セルワタラス氏は、「特に航空分野、半導体とその製造設備では、ドミネート(支配的)だ」と話す(写真)。例えば航空分野では、「米ボーイング社から飛行機の着陸機構といった、人命に直結する部品開発を任されている」(セルワタラス社長)と明かす。半導体製造装置では日本の有力企業の開発パートナーにもなっている。

 組み込み分野と並び、エンタープライズ分野で同社が注力するのは、金融、なかでも証券サービスである。01年にはドイツ銀行と合弁会社を設立し、BPO業務を請け負っている。そこで得たノウハウを横展開する。06年度の売り上げ構成を見ると、ハイテク・製造業が30%を占め、金融業は27%を占める。

 そのHCLは現在、組み込み分野とエンタープライズ分野の両分野において、開発から運用・保守までのすべてのITサービスを提供する「マルチサービス」の拡大を狙っている。そこでは、顧客から丸ごと業務を引き受けるアウトソーシングにとどまらず、どうすれば顧客のビジネスを伸ばせるかを、HCLのコンサルタントや技術者がユーザーと共にディスカッションする「コソーシング」の考え方をベースにする。既に米シスコ・システムズとは、開発を請け負ったシステムや製品の売り上げが伸びれば、その増加分の一部分を開発費用に換算する報酬契約型のプロジェクトを進めている。

 HCLが成長の牽引役として期待するのが、ITインフラの遠隔サービスである。 現在の売り上げの49%占めるアプリケーション開発は、成長率が同社内で最も低い38%にとどまっているからだ。それに対し、ITインフラの遠隔サービスは、06年度の売上高に占める割合こそ14%ながら、成長率は社内で最も高い75%に達している。06年度は、「300億円クラスの案件を5件受注した」(セルワタラス社長)という。