インドのITベンダーは、インド工科大学(IIT)を頂点とする理工系大卒者を万単位で抱え、英語力とCMMI(能力成熟度モデル統合)に裏打ちされた開発プロセスを武器に、グローバル化を進める。米国と12時間ある時差を利用したアウトソーシングや、ERP(統合基幹業務システム)導入、レガシー・マイグレーションといったサービスを展開。そこから業務ノウハウを得ながら、より上位のサービスへと進出している。

 第5回からは、企業の頭文字から“SWITCH”と称されるインドITベンダーのトップ6について、その実像と日本戦略をみていく。今回は、SWITCHの「S」であるサティヤム・コンピュータ・サービスを取り上げる。

インド初、サッカーW杯のオフィシャルITサービス・プロバイダに

ヴィレンダル・アガルワル取締役上級副社長 アジア太平洋、中東、インド、アフリカ地域統括
写真1●ヴィレンダル・アガルワル取締役上級副社長 アジア太平洋、中東、インド、アフリカ地域統括

 サティヤム・コンピュータ・サービスは、従業員数3万3812人(2007年3月時点)を抱えるインド第4位のITベンダーだ。2007年度に前年度比42.3%増の20億8000万ドルの売り上げを見込んでいる。07年度の第1四半期は前年同期40.3%増、第2四半期も同44.8%増を達成した。アジア太平洋・中東・インド・アフリカ地域を統括するヴィレンダル・アガルワル副社長は、「他のインド企業と比べても好調」と話す(写真1)。米国以外への市場を拡大しており、06年度にはオーストラリアでの成長が顕著だった。同市場における売り上げは、総売上高の8%を占めるという。

 そのサティヤムは07年11月24日、国際サッカー連盟から、FIFAワールドカップのスポンサーおよびオフィシャルITサービス・プロバイダに選ばれたと発表した。これまでは米IBMや米EDS(エレクトロニック・データ・システムズ)や英国ベンダーが請け負ってきた役割で、インドのITベンダーとしては初めてのことである。サティヤムは、10年の南アフリカ大会と14年のブラジル大会、およびその間に2回あるFIFAコンフェデレーションズカップで、イベント管理システムを構築。FIFAのイントラネット/エクストラネット上のWebサイト開発なども担当する。

1991年にインド-米シカゴ間のオフショアを開始

 サティヤムは、1987年にインドのハイデラバードでB・ラマリンガ・ラジュ会長が創業した。ラジュ会長は91年、米シカゴ郊外のビルの一室に開発拠点を開設し、そことユーザー企業のシステムを64kビット/秒の回線で結んだ。ユーザー・サイトで要件定義と受け入れテストをし、ビルの一室で開発とテストを実施した。この形態は、米印間にある12時間の時差を意識したもので、「この“リトル・インディア”の成功が、インド国内から開発力を提供するオフショア開発の確立につながった」(本社副社長兼日本支社代表の安藤典久氏)という。

世界に27ある開発拠点の中核となるサティヤム・テクノロジ・センター
写真2●世界に27ある開発拠点の中核となるサティヤム・テクノロジ・センター

 現在、サティヤムは世界に27つの開発拠点を構える。その中核となるのが、ハイデラバード郊外に96年に開設したサティヤム・テクノロジ・センターである(写真2)。50万平方メートルの敷地内に、米GE(ゼネラル・エレクトニック)や日立製作所といった特定挙客向けのオフショア開発センター(ODC)のほかに、図書館や研修施設などが並ぶ。

 研修施設では、日本やオーストリアなどで採用した技術者を教育する。教育機関は2つある。新卒者向けの「サティヤム・ラーニング・センター」と、上級者向けの「サティヤム・スクール・オブ・リーダーシップ」である。前者では、基本技術や顧客ニーズに合わせたITのほか、教育期間の後半では経済や国際化の動向も教える。後者では、MBA(経営学修士)取得に向けた講座を開いており、米国や英国、シンガポールにある21の大学と提携し、オンラインで授業を受けられるようになっている。