インドのITベンダー最大手6社“SWITCH”の「W」であるウィプロは、業界第2のITベンダーだ。2006年度(3月期)に前年度比40.8%増の34億6700万ドルを売り上げた。1945年にムンバイ(旧ボンベイ)で創業したピーナッツ油精製会社を母体とする同社は、80年代にIT産業に進出。00年にはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したことで、「インドの虎(バンガロール・タイガー)」とも呼ばれる。

 ITへの転進を決断したのが、アジム・H・プレムジ会長だ。ピーナッツ油精製会社の創業者である父の急逝を受けて、プレムジ会長が米スタンフォード大の学生から同社のトップに転身したのが66年。当時350人だった従業員数は今、約7万人(08年3月予想)にまで増えている。ウィプロ・テクノロジーズは、欧米や日本向けにITサービスを提供するオフショア専門会社。インド国内と周辺国に向けては、別会社のウィプロ・インフォテックが担当している。

エンタープライズから組み込み系までのサービスを提供

 ウィプロ・テクノロジーズの本社は、インドITのメッカ、バンガロール郊外にある(写真1)。「知識は水のように流れる」との言葉を表した池や、瀟洒なホテルのような建物が並ぶ。その一室で、同社のA.L.ラオCOO(最高執行責任者)は、「ウィプロには、他のインドITベンダーと比べ2つの違いがある」と話す(写真2)。

インド・バンガロールのウィプロ本社。オフショア開発センターは市内にも点在する   A.L.ラオCOO(最高執行責任者)。日本拠点の統括担当でもあり、自室には日本のポスターもあった
写真1●インド・バンガロールのウィプロ本社。オフショア開発センターは市内にも点在する   写真2●COOのA.L.ラオ氏。日本拠点の統括担当でもあり、自室には日本のポスターもあった

 第1の違いに挙げるのは、「ITサービスの多様さ」(ラオCOO)。企業向けアプリケーションの開発・保守やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のほかに、組み込み系の開発にも力を入れている。

グローバルにおける組み込み系の責任者であるラメッシュ・エマニ取締役
写真3●グローバルにおける組み込み系の責任者であるラメッシュ・エマニ取締役

 現在の成長分野は、企業のサーバーやパソコン、アプリケーションをインドから遠隔保守するITインフラストラクチャ・マネジメントである。ラメッシュ・エマニ取締役は、「遠隔保守によって運用コストを30%削減できる」と話す(写真3)。06年には、米大手企業に対して5000拠点に分散する5万台のパソコンに対し、インドからソフトのアップグレードを実施した実績があるという。


品質面では日本の厳しさに学ぶ

 2つめの違いには、「技術と品質」を挙げる。同社は80年代に自社ブランドのパソコンを発売し、成長の足がかりを作った。それだけに、「ハードやチップ、半導体、通信、無線などの組み込み系を中心に研究開発費を投入している」(ラオCOO)という。同社技術者の1万3500人が研究開発に携わる。

 一方の品質では、「日本の製造業者の品質管理に着目し、その厳しさを手本にした」(ラオCOO)。97年には品質管理手法のシックス・シグマを導入したほか、品質管理の国際規格である「ISO9001」やCMMI(能力成熟度モデル統合)レベル5などを2000年代に相次いで取得した。ラオCOOは、「インドのITベンダーが安価に多くの人員を提供できるのは当然のこと。いかに技術と品質の高さで勝負できるかに力を注いでいる」と話す。