インターネット・サービスの激戦区である動画配信で後発ながらYouTubeを上回る成長速度,YouTubeの3倍以上となる1日ひとり3時間以上という平均視聴時間を実現したニコニコ動画。開設後1年足らずで400万人の会員を獲得,日本全体のトラフィックの約10分の1を占める。その成長速度はmixiも上回り,日本史上最速と見られる。

ニコニコ動画
ニコニコ動画

 ニコニコ動画は多くのメディアで語られ,2007年10月にはグッドデザイン賞も獲得したが,これまでは社会現象やマーケティングの観点から語られることが多かった。しかしニコニコ動画を作り上げ,その急拡大を支えたのはまぎれもなくエンジニアの技術だ。多くのクリエイタやユーザーを魅了し,巨大なアクセスをさばく技術はどのようなものなのか。ドワンゴのエンジニアに聞いた。

「感情」を共有するアルゴリズム

 動画の上に文字をかぶせるサービスはニコニコ動画以前にも存在した。また,動画のタイミングと同期してWeb画面にコメントを表示するというアイデアも既にあった。しかしニコニコ動画のように巨大なユーザーと投稿を集めたサービスはこれまでになかった。

ドワンゴ 研究開発部 マネジャーでニワンゴ 取締役の溝口浩二氏
ドワンゴ 研究開発部 マネジャーでニワンゴ 取締役の溝口浩二氏
 なぜニコニコ動画だけがユーザーを集めることができたのか。ニコニコ動画が実現したブレークスルーを,ドワンゴ 研究開発部 マネジャーでニワンゴ 取締役の溝口浩二氏は「ニコニコ動画では『知』の共有だけでなく,『感情』の共有を可能にするアルゴリズムを作った」と表現する。

 「感情を共有するためのアルゴリズム」とは,すなわちコメント表示に盛り込まれたアルゴリズムとパラメータである。まずコメントはデフォルトで右から左へと流れていくが,コメントの文字数がいくつであっても画面上で4秒間表示するようにした。そのため,短いコメントはゆっくり表示され,長いコメントは速く流れる。「これにより,長く冗長なコメントが減り,簡潔で要点をついたコメントが増えるという淘汰が起きた」(溝口氏)。

 コメントの長さによりコメントの流れる速度が違うため,画面上で重ならないように表示するため「衝突するかどうかの計算を行いレイアウトする」(ドワンゴ 研究開発部 戀塚昭彦氏)。図のように,時間軸に沿ってコメントの占有する領域を計算し,重なる場合は別のレーンに流れるようにする。

コメントが占有する水平領域の時間軸上の表現
コメントが占有する水平領域の時間軸上の表現

コメントの衝突判定
コメントの衝突判定

 ただし,「大量のコメントが同時についたときには,レイアウトをあえて崩す」(戀塚氏)。盛り上がりを演出するためだ。折り重なった大量のコメントで画面は埋め尽くされる。このような状態は,ニコニコ動画のユーザーに「弾幕」と呼ばれている。

コメントの弾幕
多くのコメントによる盛り上がりを表現する「弾幕」

 コメントは流れるものだけでなく静止して表示されるものや,色,大きさなどをコマンドで制御できるようにした。

コメントのコマンド
コメントのコマンド

 コマンドを駆使することで文字で作った絵(アスキーアート)を表示するユーザーも出現。このようなユーザーは「コメント職人」と呼ばれる。コメント職人の存在と,それを可能にしたコメントのコマンド機能も,ニコニコ動画で参加者が感情を共有するための大きな要因となっている。

 2007年11月からは,コメント投稿者が簡単なマクロを記述できる「ニコスクリプト」を開始した。言葉の投稿回数を集計する「アンケート」や,特定の言葉を“当たり”とする「クイズ」,動画上から他の動画にリンクできる「動画ジャンプ」,動画の一部分だけを明るく表示させる「窓」といった機能を使用できる。

【訂正】
掲載当初コメントの表示時間を「3秒」としておりましたが,正しくは「4秒」です。お詫びして訂正いたします。[2007.12.13]