題名からお分かりのように,本稿は11月20日付で「記者の眼」欄に公開した「『勝手に絶望する若者たち』は自分のことを笑えるか」の続編である。公開後,拙文に対して質問をいくつか頂戴したのでお答えしたい。

 前回記事の冒頭に「ITproに関係ある話になるかどうか分からない」と書いたが,読み直してみると,ITにまったく関係ない話になっていた。にも関わらず,多くの方に読んで頂けたことにお礼を申し上げる。仕事で人に会うと「読みました。ところで…」と話しかけられ,質問を頂戴することが数度あった。インターネット上でもそれなりに話題になったようである。

一体何が言いたいのか?

 前回の文章は結構長かったので,「要するに何を言いたかったか」と首をひねった方がおられた。年下の記者がよく分からない原稿を書いてくると,「要するに何を言いたいのか」と聞き,「言いたいことから先に,原稿は逆三角形に書け」と指導しているが,先のコラムは,結論を明確にしない「正三角形」の形で書いたため,分かりにくかったと思われる。

 原稿を書いた以上,言いたいことはあったが,三つの理由であのような形にした。理由の一つ目は,「言いたいことをそのまま書くのは芸がない」ということだ。「○○したほうがよい」と思ったとして,それを「○○すべきである」と書いても,○○したくない人には届かない。○○したいと思っている人は分かってくれるだろうが,もともとそうしたいわけだから,わざわざ書くこともない。

 二つ目は,「言いたいことがいくつかあった」という理由である。これは読者には迷惑な話かもしれないが,○○と△△について書きたい,あるいは書く必要がある時,別々に記事を書くのではなく,一つの記事に両方の主旨を盛り込みたくなる。原稿を書いているのは楽しいので一本の記事で済ませたいわけではない。一つの原稿でいくつかのことを同時に言う実験をしてみたかったのである。

 「質問に答えると言いながら,『要するに何を言いたかったか』という問いに少しも答えていないではないか」と思われる読者があるかもしれない。そうした追求に対しては,三つ目の理由を説明しなければならない。「言いたいことはあったが言うのが恥ずかしい」であった。一介の記者である以上,ITに関することならいざしらず,他人,しかも若者の人生について偉そうに講釈する立場には本来ない。

 これだけでは答えにならないかもしれないので,前回コラムの中から「言いたかった」箇所を再掲する。引用文の中に「コンピュータ技術者」とあるが,これはITproだからそうしたまでで,職種は何でもよいし,「若者」でも「フリーター」でもよい。

「勝手に絶望する」コンピュータ技術者の方がおられるとしたら,差し出がましいようだが,“Laugh your life”,すなわち「悩んだり,落ち込んだり,愚痴ったりする前に,自分のことを笑って」みてはいかがでしょうと申し上げたい。

あのロックバンドの名前は?

 当然というべきか,受けた質問の中で一番多かったのは,コラムの中に登場する「イギリスのあるロックバンド」の名前であったが,これについては回答を拒んでいた。30年前の学生時代によく聞いていたバンドの名前を書くというのは五十近くなった今,なんとも照れくさい。

 名前を伏せたまま,もう少し書いてみる。そのバンドは1977年にレコードデビューし,ほぼ5年間活躍したパンクロックのバンドである。本当はもう少し長く活動を続けたのだが,“Laugh your life”について「頭にくることや厳しいことばかりで何から手をつけてよいのか分からない。それなら,笑ってしまうところから始めようじゃないか」と話していた主要メンバーが喧嘩別れという形で脱退した時,バンドは終わってしまったと筆者は受け止めた。

 1976年くらいから数年の間,イギリスで一大現象となったパンクロックのムーブメントを,筆者はレコード盤とラジオを通じて体験した。当時は,DVDもインターネットも存在しなかったし,来日公演もほとんど行われなかった。音を聴くだけであったが,“Laugh your life”をはじめ,その時に接した言葉のいくつかを今でもよく覚えている。

 今回の題名に採った「未来は無い」(No Future)という言葉は,別のパンクロックバンドの代表曲の初期題名であったと記憶する。初期題名という言葉は無いのかもしれないが,実際にシングルレコードになった時には別の題名になっていた。このセカンドシングルはイギリスで放送禁止になり,面白いことに日本でも同様の処置が当初とられた。このため筆者がこのバンドの曲を初めて聞いたのはサードシングルからであり,こちらの印象が非常に強い。サードシングルの曲は「俺達は空っぽだ」と繰り返された後,“We don't care”という一言で締めくくられる。未来があろうがあるまいが,気にする必要はないのである。

 というわけで,“Laugh my life”と“I don't care”が筆者の座右の銘のようなものなのだが,2007年末までにやるべき仕事が山積している今,笑ったり,知ったことかと放言するわけにはいかない。だが,泣いたり,絶望したり,命をかける必要もない。著作権上,歌詞を詳しく引用する訳にいかず前回は割愛したが,“Laugh your life(お前の生を笑え)”のすぐ後には「泣くに値するものなどない」と続くのであった。

 なお,IT産業をウォッチする仕事をしている方から,「後輩と何かもめたので,あのような内容を書いたのですか」と質問された。前回コラムに「ここ数年,気になっていたものの,書きあぐねていたことについて書く」と記した通り,以前から思っていたことを書いたまでで,特段のきっかけがあったわけではない。