インターネット接続サービスのサービス内容が変わるかもしれない──。こう聞くと,「今度は速くなるの?安くなるの?」という言葉が口をつくかもしれないが,そうではない。「利用を一部制限される」「料金が高くなる」というように,ユーザーにとってはあまりうれしくない状況が訪れそうなのだ。

 ISPは目下,ピンチに見舞われている。動画をはじめインターネット・トラフィックが急速に膨れ上がっているのに対し,そのための投資に見合う収入を得にくくなってきているのだ。トラフィックが増えれば,それをさばけるようにバックボーン回線やネットワーク機器を増強しなければならない。ベストエフォート型のサービスとはいえ,多くのISPは安定した品質でサービスを提供できるように設備を用意する。

 「トラフィックが増えてくると,ISPはスムーズにつながるように帯域をどんどん拡大していかなくてはならない。にもかかわらず,大半のユーザーが利用しているブロードバンド接続のサービス料金は定額のまま。ここでギャップが生じてしまった」。大和総研の西村賢治・企業調査第三部シニアアナリストはこう話す。結果として,収入が設備コストに追いつかなくなりつつある。

 そこでISPは,既存サービスの見直しと新しいビジネスモデルを模索し始めた。今年4月から9月,この動きが表面化した。5社のISPが相次いで集合住宅向けFTTH接続メニューの料金値上げに乗り出したのである。ギャップを埋めるには,新たな収入源が必要。それを確保する手立てがなければ,ユーザー料金を値上げするISPがさらに出てきても不思議ではない。

 一方で,「インターネット接続料金は安く,シンプルに。接続サービスで違いを出す時代は終わっている」とするISPもある。代表例がDTI(ドリーム・トレイン・インターネット)。同社は今年10月のメディア/アナリスト向け事業戦略説明会で,「(端末や場所を問わず使える)ユビキタスなサービスに注力する」(石田宏樹社長)という方針を表明した。

 DTIの親会社であるフリービットのように,競合他社の買収を進めることでスケール・メリットを得ようと考えるISPも出てきた。このように,ISPのサービスは今までの「似たりよったり」から,料金や付加価値の面で独自色を強めたものに変わろうとしている。

ユーザーは1日に300MBダウンロード

 ISPが置かれている状況を,もう少し詳しく見てみよう。

 この数年,日本のインターネットにはブロードバンド化の波が押し寄せてきた。その結果,インターネット・トラフィックは増加の一途をたどっている。その傾向を表すデータがある。総務省が年2回公表している日本の全ブロードバンド・ユーザーのダウンロード・トラフィックの試算値だ。

 ブロードバンド・ユーザーのダウンロード・トラフィックは2007年5月の時点で721.7Gビット/秒。2008年5月には1Tビット/秒に達する見込みだ。一人が1日にダウンロードするデータ量に換算すると約300Mバイトになる(図1)。平均すれば,日本の全ブロードバンド・ユーザーが2日でCD-ROM1枚分のペースでコンテンツをダウンロードし続けていることになる。

図1●日本のインターネット利用者数とトラフィック量の状況
図1●日本のインターネット利用者数とトラフィック量の状況
すべてのブロードバンド・ユーザーが1日にCD-ROMの半分近いデータをダウンロードしていることになる。総務省が公表しているインターネットのトラフィック測定データを引用。一部は本誌で計算した。
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 IX(インターネット相互接続点)が公表しているトラフィック・データの実測値を見ても,「トラフィックは母数が増えているにもかかわらず,依然として年に1.4~1.5倍のペースで増え続けている」(インターネットマルチフィードの稲葉秀司・取締役営業部長)。

利用者は増えるが料金は下がり続けた

 一方,インターネット接続料金は,今でこそ下げ止まった感があるが,数年前から段階的に下がり続けている(図2)。例えばNTTコミュニケーションズとぷららネットワークスは,同種のメニューを段階的に値下げしてきた。ADSLとISPのワンストップ・サービスを提供するソフトバンクBBは,既存サービスよりわずかに高い料金を設定した高速版メニューを追加投入してきた。これもビット単価で見れば,実質的な値下げである。

図2●下がり続けてきたインターネット接続料金(一例)
図2●下がり続けてきたインターネット接続料金(一例)
「同一メニューの段階的な値下げ」「同じ料金のより高速なメニュー追加」などにより総じて安くなってきた。

 一方で,ISPによって伸び率の違いこそあれ,ブロードバンド・ユーザーの数は増えている(図3)。インターネット接続サービスの収入は概して拡大しているはず。ただ,前述のようにトラフィックの伸びがユーザー数の伸び以上に急激で,ISPはその対応に追われている。

図3●主要大手ISPの近年のブロードバンド会員数の推移
図3●主要大手ISPの近年のブロードバンド会員数の推移
各社の数値は公開資料または問い合わせにより入手したが,NECビッグローブは非公開であるため,日経産業新聞の会員数シェアの報道を基に編集部で計算した。