この11月,携帯電話を使った法人向けのサービスが2つ,相次いで発表されました。11月9日に日本通信が「ケータイPC化サービス」を,11月26日にはソフトバンクモバイルとソフトバンク・テクノロジーが共同で「Biz フェイス」を発表したのです。NTTドコモの905iシリーズの発表などと比べると華やかさではどうしても引けを取りますが,携帯電話のビジネス利用を考える際に意味のあるサービスではないかと思うのです。

 まず,簡単にこれらのサービスを紹介しましょう。

 ケータイPC化サービスは,一言で説明すると「iモードのセンター」の代わりに,企業内のネットワークに日本通信を介して接続するものです。ユーザーの端末には,社内のメールサーバーに届いたメールが,iモードと同様にプッシュされて着信します。送信も会社のアドレスでできます。社内のグループウエアなどにも携帯電話から直接アクセスできます。iアプリを作れば,各種の業務サーバーと連携することも可能です。NTTドコモとの相互接続により実現するサービスで,当面はNTTドコモの端末から利用する形態です。

 もう一つのBiz フェイスは,携帯電話の「フェイス」,すなわち待ち受け画面やソフトキーを企業用に変えられるサービスです。待ち受け画面には,業務で使う携帯向けサイトを登録したり,メッセージをティッカー表示することができます。「Y!」ボタンと「メール」ボタンはカスタマイズが可能で,必要な連絡先に電話をかけたり,写真を撮ってサーバーに送るといった機能をワンタッチで呼び出せるようになります。こちらはソフトバンクモバイルの端末のうち,まずはシャープ製の最近の機種から対応を始めます。

 いずれも,携帯電話をビジネス・ツールとして使うために,カスタマイズを可能にしたサービスです。業務用の機能を,携帯電話のネイティブの機能と同じように使えるところに,一つの転換点があるように感じるのです。

 これまでも,携帯ブラウザやiアプリやBREWに代表されるような携帯アプリを使って,業務の機能をアドオンする形で業務端末として使う例は多くありました。もちろん,この形態でも業務の有効なツールとして活用できます。ただ,メールを見るためにブラウザを起動してチェックしに行くとか,アプリを起動して写真を撮影して送信するとか,一手間多くかかるケースが多いことも事実だったと思います。

 ケータイPC化サービスとBiz フェイスの切り口は,もっとビジネス・ツールとして使いやすくなるサービスだという点にあります。ケータイPC化サービスならば,会社のメールが携帯電話に着信するので,あたかも北米で流行のBlackBerryと同じように使えます。Biz フェイスも端末を“開いた”途端に待ち受け画面やボタンが業務モードになっていますから,必要な作業をさっとこなすことができます。

 数年前,企業ユーザーやインテグレーターなどにスマートフォン待望論が盛り上がったことがありました。汎用の携帯電話よりもカスタマイズがしやすいスマートフォンは,ビジネス・ツールとして好適だという議論です。スマートフォンはその後,着々と市場での地位を高めていますが,多くの人が使いこなすといったところまで達していないのも事実でしょう。一方,2つの新サービスならば,使い慣れた普通の携帯電話に会社のメールが直接届き,開いただけで業務モードになっている。これらは携帯電話の業務利用を促進する力になるのではないかと思います。

 これらは,まだ生まれる前のサービスですし,利用できる端末も限られます。それでも,「携帯電話の業務利用」を考える企業などにとって,目的にフィットすれば一つの選択肢にはなるでしょう。1億契約を目前にした国内の携帯電話市場ですが,本当にビジネスで使えるこのようなサービスやソリューションが花開けば,まだまだ潜在ユーザーはたくさんいるのではないかと思う次第です。