マイクロソフト
インフォメーションワーカービジネス本部
ユニファイド コミュニケーション グループ
部長
越川 慎司

IMは使い方次第で効果を発揮する。海外とのやりとりに使い英語力をカバーしたり、相手の都合を確認するだけに利用したりするという使い方がある。ナイショ話ができる点にも注目したい。

 IMチャットというと「お遊びツール」と思われる方が多い。実際に、IPメッセンジャーやコンシューマIMを私的利用している場合は、確かにそうだろう。しかし、企業の生産性を上げるべく、ビジネスツールとしてIMを活用している企業もある。

 「インスタント メッセージを使って、簡単なチャット会議をすることがあります。ちょっとしたことを確認したいが、会議室に集まるほどではないといった場合によく利用しています。特に関係者が複数の拠点にいるような場合、チャット会議は非常に効果的です。」と企業IMを導入したキリンビールは語っている。

 このようなリアルタイムに連絡を取れることが、不要なコミュニケーションロスを抑制し、企業の俊敏性を上げるのだが、企業IMのユーザーにヒアリングすると様々な利用方法があることを知ったのである。

英語力をIMでカバー

 グローバル展開する企業においても、時差と距離の壁を超えるコミュニケーションとしてIMを採用するケースが増えてきた。至急回答が欲しいときに、米国本社の担当にメールしても返信がなく、電話をしてもボイスメールにつながるだけ。そのようなとき、その担当者がオンライン状態になったのを確認したらIMをすぐに送信する。「例の件、すぐに回答してもらえないだろうか?」

 ただ日本のユーザーにヒアリングすると、それ以外の目的で海外拠点とIMしていることが分かった。海外拠点と会議をするときは、電話会議やビデオ会議を使うことが多いのではないだろうか。グローバルなコミュニケーションとなると英語を使うことは多いと思うが、ここで問題になるのが、英語のヒアリング能力である。地域によって異なるアクセントや会話スピード、日本の英語教育だけではカバーできないヒアリング能力が必要となる。また、聞き逃してしまった後にフォローがしにくい。会議のスムーズに進めるために、何度も聞き直しはできない。

 そこで、海外の多地点との打ち合わせをIMで行っている企業があるのだ。IMで記載された英語の読解の方が、ヒアリングよりもハードルが低い。また、英語のアクセントの違いも影響を受けることがなく、何よりも保存(ログ)をして、後で確認ができる。

電話機の周りのメモを減らす

 欧米の場合、個人番号(ダイヤルイン番号)を持っていて、不在の場合でも代理で電話を取ることはあまりない。一方、日本の場合はアシスタントや若年者が代理で電話を取ることが多いのではないだろうか。

写真1●企業IMの特徴はログ(履歴)管理
写真1●企業IMの特徴はログ(履歴)管理
検索をかけて過去の会話を探し出すことも可能。
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 皆さんの電話機の周りに付せん紙が散らかっていないだろうか?「14:00 A社の桑原さんより電話あり。席に戻り次第、折り返し電話してください。03-xxxx-xxxx 鈴木 受」。これをIMで送信すれば、緊急な要件をすぐに対応することもできるし、電子的に履歴(ログ)を取っておくこともできる(写真1)。Outlookに履歴を残せば、検索対象に含めることができ、後でやり取りを探し出すことも可能になる。この保存性はコンシューマIMにはない、企業IMのメリットである。


今ちょっといいですか?

 「IMの普及を妨げる日本人のDNA?」でも記載したが、日本のDNAからすると、相手を邪魔することも、邪魔されることも好まない。そこで、IMで軽く確認、承諾を得てから電話する、会話を開始する、というのが多いようである。実際に、マイクロソフト日本法人でも「今ちょっといいですか?」で始まるIMが多い。私の場合、1日平均20件程度のIMを受け取るが、そのうち約70%が「今ちょっといいですか?」といった軽い確認から始まっている。このような気軽さが日本人には向いているのかもしれない。マイクロソフトのOCS(Office Communications Server 2007)を導入した東京地下鉄(東京メトロ)も次のように話す。

 「OCSのプレゼンス機能とインスタント・メッセージングの活用に期待を寄せています。対話したい相手の状態を確認できますし、インスタント・メッセージングはメールにはない気軽さとスピードでコミュニケーションできる点は魅力的」。

ナイショ話が得意?

 IMには保存性、即時性(すぐに会話ができる)のほかに、秘匿性という特徴もある。簡単にいえば、ナイショ話である。電子メールは保存性や秘匿性はあるが、即時性は弱い。電話は、即時性があるが、保存性と秘匿性が弱い。

 最近このようなシーンがあった。米国本社の担当が来日し、来期の人員計画について議論を交わした。私は、現状の問題点を列挙し、論点を絞って人員増加を要求したのである。しかしながら本社の意向とはズレていたようで、それを私が気付かず、議論がなかなか進まなかった。そのとき上司からIMが飛んできた。「他の論点に移そう」。はっと思った私は、違う観点で要求し、見事に前に進んだのである。

 このようにほかのメンバーに知られることなく使えるIMは、外出先でも役立つことがある。パートナーに訪問中して今後のマーケティング・プランを話していたところ、目標値について議論がおよんだ。そのような場面で、横に座っていたメンバーからさっとIMが入った。「昨年の実績と、他パートナーの状況を取り寄せています。数分以内にデータが届きます」。彼は社内の「オンライン」のメンバーに連絡を取り、即座にデータを取り寄せたのである。このように秘匿性と即時性を備えたIMは、交渉や打ち合わせ時の意識合わせ、指示伝達にも役立つのである。

「すみませんが、少し遅れます。先に始めてください」

 モバイルといえばiモードを始めとするSMS(Short Message Service)ライクなメッセージが主として使われる場合が多いが、ビジネスで利用する際には、緊急を要するときが多いのではないか。

 企業IMもモバイルに対応しているものもある。外出先で急を要する場合は、コミュニケーションを取りたい相手を確実に捕まえる必要がある。そういったときにはプレゼンスをベースとしたIMが役に立つ(写真2)。電車で移動中に、確実に連絡を入れたい場合、モバイルからIMを送る。電話やメールでは相手が捕まるか確定ではないが、IMであれば相手の状況も分かるし、返信がすぐに来る可能性が高い。携帯メールに「プレゼンス」を追加したのがモバイルIMの強みである。

写真2●モバイルでもプレゼンス 写真2●モバイルでもプレゼンス
写真2●モバイルでもプレゼンス
スマートフォンから組織内のメンバーの状況を確認し、IMがすぐに開始できる。

 このようにIMは「電話と電子メールのすき間」を埋めて、様々なシーンで快適にコミュニケーションを行うことができる。なおさら企業向けIMであれば、暗号化やログ保存などセキュリティやコンプライアンスに配慮されており、組織としてガバナンスを効かせて運用することができる。このような便利なツールを、業界をあげて訴求していけば、もっと認知度も高まり、日本企業に浸透していくのではないだろうか。