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代表取締役社長 CEO
渡邉 君人

インスタント・メッセージ(IM)にもマナーがある。電子メールなどのように、IMにもそれなりのネチケットが必要である。気軽に使えるIMゆえに、ネチケットに注意しないと思わぬミスや誤解につながる恐れがある。

 インスタント・メッセージ(IM)は電子メールに比べて手軽に利用できるコミュニケーション・ツールである。しかし、その気軽さゆえに、相手との間に思わぬコミュニケーション・ミスを招いてしまうこともある。電子メールが普及し始めたときに「ネット上のエチケット」を意味する「ネチケット」という言葉が生まれ使い方が指南されたように、IMにもそれなりのネチケットが必要である。マナーを十分理解したうえでIMを活用してほしい。

相手のステータスを確認する

 IMには、電話や電子メールと違って、相手の在席状態がわかるプレゼンス機能がある。基本的に、このプレゼンスからすべてのコミュニケーションが展開されると考えてもらってよい。まず、急ぎの用件であったり返答を必要としたりする場合は、メッセージを送る前に相手が「オンライン」「OnNet」など、在席の状態にあるかどうかを確かめよう。

 「会議中」「不在」など、相手が席にいない場合にもメッセージを送れるが、席に戻ってきたときにそのメッセージに最優先で対応してくれるとは限らない。素早い対応を期待するなら、在席中に送るのが一番である。

 また、「返信不可」や「集中」など今は邪魔をしないで欲しいというプレゼンスを尊重しよう。これは、在席中であっても業務に集中しているなど、邪魔をしないでほしいという意味である。そのようなときは少し時間をおいてから連絡するなど気を遣いたい。納期に追われているエンジニアに「オンライン」だからとメッセージを送った途端、「ビジー」(多忙)にステータスが変わった、などという笑えない話もある。

 逆に「返信不可」などのプレゼンスはむやみに多用しないことも大事である。ちょっとしたことでもこれを使っていると、“狼少年”みたいになり、いざというときに効力を発揮しないってことも。

自分のステータスには責任を持とう

 プレゼンス機能はお互いの信頼関係のうえに成り立っている。相手は、あなたが設定したステータスを正しいものとして判断する。仮に「オンライン」に設定したまま、外出してしまったらどうなるだろう。あなたが在席していると思っている相手は、すぐに返事が来ると見込み急ぎのメッセージを送ってくるかもしれない。しかし、返事はなかなか来ない。業務が滞ってしまう可能性もある。はじめから不在と表示されていれば、別の対応を考えていたはずだ。先ほども納期前のエンジニアのエピソードを書いたが、「オンライン」の表示には責任が伴うのである。相互信頼がコミュニケーションの基本だからだ。

会話スタートのあいさつは必要?

 IMのハウツー情報の中には、「やりとりをスタートする際には『いま大丈夫?』といった一言メッセージを送ることがエチケットである」と書かれているのもある。しかし、企業で利用するのであればそのようなルールに従う必要はないだろう。先ほども述べたように、プレゼンスの「オンライン」などは、いつでも対応できる状態の意思表示だと認識すべきだ。

 一方、メッセージの冒頭にあいさつ文を付けるかどうかは、人それぞれである。たとえば「○○さん、お忙しいところ割り込みすみません。▽▽課の△△です。」といったあいさつ文を添える人もいれば、「先日の××の件ですが・・・」と単刀直入に用件から入る人もいる。どちらが良い悪いというわけではないが、職位が上の相手ほどあいさつ文があったほうが好印象を抱くかもしれない。また、複数名への一斉配信のときにはあいさつ文があったほうが親切かもしれない。

 というのも、複数名の間でメッセージが行き交うと、誰からのメッセージであったか一瞬見失ってしまうことがある。それを避けるためにも、冒頭に差出人の名前くらいは添えてあげたほうが親切であろう。その場の状況や連絡する相手によって臨機応変に使い分けたい。

相手が返信しやすい文章に

 「相手が返信しやすい文章を書く」--。これは、電子メールでも基本的には同じことがいわれてきた。ただ、「電話的」なIMは、この点を少し意識するだけでコミュニケーションがより円滑になる。長い文章を読んで、再び長い文章で返す、という性格のツールではないからだ。極端に言えば「はい/いいえ」で回答できるようなメッセージを送るのが効率的。「はい/いいえ」で回答できない場合でも、返信して欲しいポイントが明確に分かる簡潔なメッセージを送るよう心がけたい。

会話にもマナーを!

 IMでやりとりする文章は、電子メールの“手紙”というイメージとは違って、どちらかというと電話での“会話”のイメージに近い。親しい間柄同士で交わされる携帯メールにも似ている。だからこそ、書き方によっては相手に誤解や不快感を与える場合があるので注意したい。

 相手との関係(上下や親密さなど)にもよるが、「書類の提出って今日だっけ?」で済む相手と、「すみません、この書類の提出期限は今日まででしょうか」と書くべき相手とがいる。日ごろ相手との距離感は会話の中で自然と区別しているはず。メッセージでも対応は変わらない。

 また、IMで否定的な内容を書くと、口頭で同じ内容を伝えるよりも受け手側が強く感じてしまう場合があるようだ。すぐに消えてしまう音声よりも、“残る”文字のほうが印象が強いということだろう。たとえば、「先日の提案書の件ですが、私としては△△のように考えていたんですが、××のような結果になってしまってとても残念です・・・」という文章内容を、口頭で伝えるのとIMで送るのとでは、受け手の印象に大きな違いがある。シーンによっては会話によるコミュニケーションを心がけたい。

返信は早めに

 インスタントには「即座に」という意味があるとおり、IMはビジネスにスピード感を与えるメディアである。だから返信はできるだけ速やかに返したい。返答に時間がかかりそうな場合は「確認するのでしばらく時間をください」の一言でもいい。

 それに、一般にIMは、相手がメッセージを受信したか開封したかが送信側から確認できる。相手は受信・開封状況を確認したいからこそ、電子メールではなくてあえてIMを利用したのかもしれない。IMの場合、相手はあなたの返信を待っているのである。開封したまま放置しておくことは控えよう。

不毛なやりとりを繰り返さない

 人間の会話は非常にあいまいに成り立っている。話し言葉では通じても文字にすると筋が通らないことが結構多いものだ。それに、文字が主体となるIMや電子メールでは、真意がうまく伝わらなかったり、揚げ足を取るような形で字面(じづら)にこだわってしまい、会話が進まなくなったりすることがある。要領を得ない内容を何度もやりとりするのはお互いに不毛だし時間の無駄だ。だからメッセージだけでは話がかみ合わないと感じたら、固執せずにさっさと電話を利用する方が得策だ。

チャットの入退室はどうする?

 IMの特徴的な機能のひとつが、複数のメンバーで会話(リアルタイムなテキストのやりとり)ができるチャットだ。チャット機能は企業では少人数での簡単な打ち合わせに用いられることが多い。そのチャットで多くの人が悩むのは、意外なことにチャットから退室するタイミングという。議事(チャット)の進行中はもちろん、終了後でも、自分が先に外れることになんとなくちゅうちょしてしまうらしい。

 とくに決まりがあるわけではないので、「別件があるので先に出ます」や「打ち合わせお疲れ様でした。ではまた」といった一言を添えて退室すればよい。また、チャットの議事に途中から参加した場合は、「○○です。遅れてすみません、今入りました」と一言添えて、「すでに決まったことはありますか?」などと聞いてキャッチアップすればよいだろう。

プレゼンスは監視ではない

 インスタントメッセンジャーのプレゼンス機能を初めて知った人のなかには、「始終監視されているようだ」というマイナスのイメージを持つ人もいる。しかし、基本的には勤務時間中にプライベートな時間はないわけだし、モバイルワークやテレワーク(ITを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方)が広まりつつある現状では、「相手の状態が分かること、また自分の状態を相手に伝えること」が企業活動を進めるうえで不可欠になりつつあることを理解しよう。

 また、社内にいることが少ない営業マンは、移動中や喫茶店から携帯電話を使ってメッセージを確認することで、ログインの記録から商談の合間にもきちんと仕事をこなしているというアピールにもなるだろう。深夜残業をしているときに、プレゼンスに別の人がまだ残っていれば、「ああ頑張っているな」という気持ちも出てくる。

 最近はワーク・スタイルの多様化が進む一方で効率が追求され、結果として社内コミュニケーションの希薄化が懸念されている。プレゼンス機能を通じて相手の状況が分かることで、「つながっている」という意識が生まれてくるはずだ。お互いの状態を、プレゼンスを通じて知らせ合うことは、決して監視が目的ではないのである。