インドのサービス拠点化を加速するのは、米IBMだけではない。欧米のITベンダーや大手企業は、インドをグローバルに向けたサービス拠点に位置付け、規模拡大を急ぐ。米アクセンチュアと米EDS(エレクトロニック・データ・システムズ)がその一例だ。今回は、両社の取り組みを紹介する。
アクセンチュア >> 米国本社を上回るインド拠点
アクセンチュアにとってインドは、「世界で50ある開発拠点のハブ」の位置付けだ。人材と技術を集め、サービスの発信拠点にする。従業員数はここ5年間に3万5000人にまでに増えた。米国本社の3万人を上回る規模である。同社でアウトソーシングに携わる社員数は、全17万人のうちの7万人。半数がインドに集中している計算だ。
売上高でもインドの貢献が目立つ。アクセンチュアの2006年度(8月期)の売上高は197億ドルで、うち78.4億ドルをアウトソーシングが占める。アクセンチュア日本法人のシステムインテグレーション&テクノロジー本部COO(最高執行責任者)で、開発機能を提供するアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ代表取締役社長でもある安間裕氏によれば、「そのほとんどはインド拠点が稼いだ」という。
アクセンチュアがインド拠点を立ち上げたのは20年前のこと。しかも5年前までは800人規模にとどまっていた。それが現在は、ムンバイ(旧ボンベイ)、バンガロール、チェンナイ(旧マドラス)、ハイデラバード、プネ、デリーの6カ所(設立順)に開発センターを置いている。採用人数も、1カ月に1000人に上る。採用現場の様子を安間COOは、「担当者が履歴書をさばいていくさまは、さながら工場のよう」と表現する。
インドへの期待は労働力だけではない。技術の高さである。アクセンチュアが世界の3カ所に置いている研究所の1つがインドにある。そこでは、SOA(サービス指向アーキテクチャ)や指紋認証、グリッド・コンピューティング、RFID(無線ICタグ)といった新しい技術を、どう企業のビジネスに有効活用できるのかを研究しているという。
ただアクセンチュアの日本市場におけるインドのIT力利用は限定的だ。主軸は中国にある。その理由を安間COOは、「日本での仕事のやり方は、第3次オンラインのときから、『ちょっとこれ直してよ。設計書はとりあえず直さなくていいから』といった、“あうんの呼吸”で進んできたから」と説明する。しかし、同社は、「あうんの呼吸を吸収する方法論を中国へのオフショアの中で数年掛けて確立した」(安間COO)とする。今後はその方法論をインドにも持ち込むなどで、インドのIT力を日本市場にも展開する。安間COOによれば、日本企業でも既に、英語の仕様書と欧米型の契約に慣れているところからは、「100人単位でインドに仕事を発注するケースが出てきている」。
EDS >> M&Aで急拡大
米EDSも最近、インドのサービス拠点化を急いでいる。10年前には一時、3000人規模のオフショア開発センターを設けていたものの、「2年前まで実は力を入れていなかった」(EDS日本法人のケリー・J・パーセル社長)という。「競合他社が成功できるかどうか動向を見ていた」(同)のがその理由だ。
そのEDSは06年7月、インドのITベンダーを買収し、インドの本格利用に転じた。買収したのは、金融業界向けのITサービスとBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に強みを持つ、インド8位(05年当時)の旧エムファシスである。日本の新生銀行の基幹システムを構築した企業として有名だ。エムファシスは買収時、インドのほか中国やメキシコなど9カ国25カ所にオフショア開発センターを構えていた。従業員数は1万2000人、05年度(3月期)の売上高は2億1000万ドルの規模である。
パーセル社長は、「2年前までオフショアからアウトソーシングを提供するスキルが足らなかった」と話す。エムファシス買収時、EDSは27のオフショア開発センターを持っていたが、「我々の開発スタイルは主にオンショアで、センターの規模もエムファシスに比べれば小規模だった」(同)のだ。今後は、「適切なスキルを、適切な場所から、適切なタイミングで世界中のユーザー企業に提供するスタイルに変えていく」(同)計画だ。サービスのフラット化にいよいよ本腰を入れる。
買収と並行してEDSは06年に、世界のオフショア開発拠点と連携しサービスを集中的に提供するためのセンターを、同社としては初めてインドのプネとチェンナイに開設した(写真)。それぞれ4500人、2500人の規模である。アプリケーションや運用受託、BPOなどを提供する。
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写真●EDSがインドのプネとチェンナイに開設したオフショア開発センター(左:プネ,右:チェンナイ) |
さらに最近は、インドEDSのソリューション・アーキテクトを米本社の営業部隊に送り込んでいる。パーセル社長はその狙いを、「ボディ・ショップ(安い労働力の派遣)をせずに上流から運用までを一括受注するのが当社のスタイルだが、営業段階からオフショアへ切り出せる範囲をより具体的に判断するためだ」と話す。結果、製造、金融、航空の既存顧客へのシステム開発・運用サービスは、どんどんインド発に変わっている。そのインド法人は07年度に、売上高は4億2000万ドル、従業員数は3万人にまで成長する見込みである。
日本法人でも07年2月、営業部隊の中にオフショア専門部隊を設置し、インドのITサービス利用に取り組み始めている。パーセル社長は、「日本に残る多くのレガシー・システムを運用できる人材は、高齢化により後継者がいないのが現状だ。運用・保守ができなくなる前に、インドを使って技術と人材をリニューアルすべきだ」と訴える。そのパーセル社長は、「個人的な感覚だが、IT人材もスキルも、世界の中心地は“西から東へ”と動いている」と話す。