背面から映像を投写してスクリーン(画面)に映し出すリアプロジェクションテレビ。日本では知名度が低く量販店でもあまり見かけないが、北米や中国では薄型の大画面テレビとして安定した人気を集めている。液晶やプラズマよりも大画面化に有利で、日本ビクターの入江工場には110V型の試作品も(写真、左は安井副学長)
背面から映像を投写してスクリーン(画面)に映し出すリアプロジェクションテレビ。日本では知名度が低く量販店でもあまり見かけないが、北米や中国では薄型の大画面テレビとして安定した人気を集めている。液晶やプラズマよりも大画面化に有利で、日本ビクターの入江工場には110V型の試作品も(写真、左は安井副学長)

 液晶か、プラズマか。大型テレビは二者択一の構図になっているが、調査員の中にはリアプロジェクションテレビ(以下、リアプロ)を選んだ者が2人もいる。国際連合大学の安井至副学長と調査員Bだ。

 北京オリンピック開催や地上デジタル放送への対応など、大型テレビ商戦が活発化しそうだ。安井副学長は「環境配慮の大型テレビはどの方式か。リアプロを中心に検討してみたい」と今回のテーマに選んだ。

 リアプロはかつて、ブラウン管方式が長く続いた時代があった。部屋の中の占有スペースが大きい上、画質の鮮明さに欠けていたため、大型のテレビとして一部で重宝されるにとどまっていた。

大型化するほど際立つ省エネ

図1●リアプロの仕組み
図1●リアプロの仕組み
リアプロは、液晶プロジェクターとミラーを組み合わせるような格好で、背面から映像を投写する。新光源への移行などによって、今後は光射出部をさらにコンパクトにすることで、製品の薄型化が図れるという

 ところが最近のリアプロは、液晶デバイスや高輝度水銀ランプの採用で画質が格段に向上し、背面の膨らみ具合も以前よりスリムになった。調査員Bは、「薄型の液晶やプラズマも、部屋に置く場合は一定の奥行きが必要になる。リアプロも第3の選択肢として遜色はない」と主張する。

 リアプロの存在を知らなかった調査員Cは、消費電力の低さに驚く。液晶プロジェクターと同じ光学技術を使って、1つの光源ランプが放つ光を極限まで有効に利用するからだ(図1)。

 「まずは各方式の大型テレビの消費電力について全体像をつかんでおこう」と安井副学長が切り出し、調査員たちはメーカーのカタログに掲載された消費電力の値を集め始めた。

 52V型の液晶とリアプロ、50V型のプラズマ(いずれもフルハイビジョン対応機)のうち、最も低消費電力の製品を比べると、リアプロが213Wであるのに対して液晶は315W、プラズマは410Wだった。65V型ならリアプロ269W、液晶500W、プラズマ728Wとさらに差が広がる。

 その時、安井副学長が「カタログ値の比較では不十分」と注文を付けた。「カタログには、画面の明るさや音量などすべての機能を最大限使った場合の消費電力が掲載されている。家庭で標準的な使い方をしている時の電力消費を見極めなければ」と、「年間消費電力量」に目をつけた。

 カタログに掲載される年間消費電力量の値は、家庭で標準的に選ばれる画面の明るさに設定し、毎日4.5時間、視聴するという条件で実測してある。安井副学長は、「年間消費電力量から逆算すれば、標準的な使い方による消費電力が導き出せる」と言い、計算を始めた。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
さまざまな製品分野の生産技術に詳しく、LCA評価手法の向上にも熱心に取り組む
 
                 
  調査員B   調査員B
環境配慮のライフスタイルを研究。科学的な情報を見定めて一般市民向けの環境教育に生かす
  調査員C   調査員C
マーケティングの専門家。環境を切り口とした消費者行動を研究し、改善策を模索する
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ