日本のユーザー企業やITベンダーが再び、インドのITベンダーに熱い視線を注ぎ込んでいる。ITサービス分野で世界の拠点となっているインドを無視できなくなってきたからだ。その背景には、日本企業自体がグローバル化を指向し始めたことがある。
インドのITは、オフショア(海外へのアウトソーシング)開発拠点として1990年代前半から注目されてはいた。その後、中国の台頭やベトナムのキャッチアップなどに加え、日本語や日本の商慣習などを理由に、日本からは“遠い”存在と考えられている。しかし、日本のグローバル化を前提にすれば、インドを単なる開発拠点ととらえては、その価値を見誤りかねない。
2007年10月に、インド最大手のITベンダーであるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)やインフォシス・テクノロジーズなどのインド本社を視察した第一生命保険の武山芳夫執行役員IT企画部長は、その感想を、「日本のITは世界の埒外だと思い知った。人材、ノウハウ、プロセス、教育のいずれにおいても日本は遅れている」と話す。今後は、「国際分業の視点から、インドのITパワーをどう取り入れるかを検討する」(同)計画だ。
既にインドのIT力を活用している日本企業に、東京海上日動火災保険がある。600億円を投じる基幹系システムの全面再構築における認証系システムの刷新をインフォシスに発注した。同社の横塚裕志執行役員IT企画部長は、「技術力の高さもさることながら、開発したアプリケーション・ソフトについて、3万台ある当社のクライアント・パソコンにインドから遠隔操作で導入するという提案は、まさにサービスの発想だった。今後も積極的に利用していく」と語る。インフォシスの提案を受け、アプリケーション開発と配布までを数億円で追加発注したわけだ。
インドのIT力に注目するのは、ITベンダーも同じだ。米IBMが05年からインドをサービス拠点に位置付け、グローバル戦略を舵を大きく切った。これまでにインドに5万人強の技術者を抱えるまでに拡大した。米アクセンチュアや米EDS(エレクトロニック・データ・システムズ)も、この5年の間に3万人規模にまでインド拠点を拡大している。日本のITベンダーも07年から、これまでのオフショア開発拠点ではなく、グローバル進出を推し進めるための足がかりとして、インドのIT力獲得に動き出した。
日本市場の変化について、TCS日本法人の梶正彦社長は、「07年に入ってから、日本の金融大手と2件、直接契約を結んだ。1年前には予想できなかったこと。直接受注は日本進出10年来の悲願だった。今は“人月いくら”で単価の安さを求めるユーザー企業もなく、潮目は完全に変わった」と話す。インフォシスの宇佐美耕次 日本代表も、「昨年までとは状況が一変した。都市銀行やメガバンクから声がかかるようになり、契約に結び付き始めた。IT部門をどうするかを含め、全社のIT戦略を任せたいという依頼もある」と明かす。エイチシーエル・テクノロジーズ(HCL)の日本法人も、この1年間に日本の投資銀行2社と直接契約を結んでいる。
この機をとらえ日本市場に本格参入するのが、インド第6位のコグニザント・テクノロジー・ソリューションズだ。来年3月、日本法人を設立する。同社は米国本社ながら、実際のサービス拠点はインドのチェンナイ(旧マドラス)にある。企業信用情報大手の米ダン・アンド・ブラッドストリートのIT部門が分社した会社で、社員の9割以上がインド系アメリカ人もしくはインド人だという。04年に日本に進出したが、従来は本社が獲得した外資系企業の日本支社へのサービス提供に事業を限定していた。コグニザント日本代表の竹内友章氏は、日本法人を今、開く理由を、「日本のITベンダーとの提携や買収を含め、事業拡大に向けた経営スピードを高めるため」と語る。既に07年6月から、日本企業の新規顧客獲得に向けた営業を始めている。
コグニザントだけではない。社名の頭文字から“SWITCH”と称されるインド最大手6社のいずれもが、日本企業への営業強化に舵を切り出している。SWITCHとは、サティヤム・コンピュータ・サービス、ウィプロ・テクノロジーズ、インフォシス、TCS、コグニザント、HCLのこと。各社とも日本市場に向けて、営業担当者やコンサルタント、ブリッジSEの増員を計画する(表)。
表●インドITベンダー大手6社の日本における事業計画 |
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*1 本誌推定 *2 インドからのオンサイト・エンジニアを含む *3 グローバル・プロジェクトを除く *4 短期ビジネス・ビザ取得者を除く |