ニッケル水素電池特有の欠点──時間経過とともに蓄電量が減る、繰り返し充電で実容量が低下する──を克服したとされる三洋電機の充電池「エネループ」。充電済みで店頭に並ぶため、「買ってすぐに使える」利便性も相まって売れ行き好調。同社のHIT太陽電池と組み合わせたソーラー充電器(写真上)などの商品展開も
ニッケル水素電池特有の欠点──時間経過とともに蓄電量が減る、繰り返し充電で実容量が低下する──を克服したとされる三洋電機の充電池「エネループ」。充電済みで店頭に並ぶため、「買ってすぐに使える」利便性も相まって売れ行き好調。同社のHIT太陽電池と組み合わせたソーラー充電器(写真上)などの商品展開も

 調査員Aは、筋金入りの充電池派。使い捨ての乾電池を避け、充電容量が現在の半分程度しかなかった時代から数々の製品を試してきた。そんな調査員Aが頭を悩ませているのが数年前に購入したデジタルカメラだ。フラッシュ用の電源確保を優先する設計だったことが災いし、いざ撮影する時になって、電源が入らない手痛い経験をしてきたという。

 「ところが三洋電機の充電池『エネループ』に替えたら十分に使えたんです。おかげでデジカメを死蔵せずに済みました」

 これを聞いた国際連合大学の安井至副学長は、「エネループが旧来のニッケル水素電池とは違うという印象は、私にもある。まずはその実力を確かめた上で、環境への影響を議論してみてはどうか」と持ちかけた。

エネループの底力を確認

 安井副学長の指示を受けて、放電の特性を試験した調査員A。

 「エネループと他のニッケル水素電池をフル充電して放電試験をしたところ、機器を動かすのに十分な1.2V前後の電圧を一番、長く保ち続けたのはエネループ」と報告し、さらに興奮混じりに続ける。

 「買ったばかりのエネループは、工場出荷前に充電された後、時間が経過している。それでも1.2V弱の電圧で粘り強く持ちこたえた。従来の充電池は、充電後に放置すると容量が自然と減ってしまうので、使用直前に充電しなければならなかった。この『自己放電』を抑えたという三洋の主張は間違いないだろう」

 エネループを使用した経験がなく、その実力に懐疑的だった調査員Bはこの報告に納得した様子だが、もう1つの特徴とされる「メモリー効果」の克服には、疑問を投げかける。

 メモリー効果とは、容量を使い切らないまま充電を繰り返すうち、実際に使える容量が目減りする現象で、長らくニッケル水素電池の弱点とされてきた。調査員Bは「三洋の発表資料にも、エネループがメモリー効果を克服したと裏付ける情報が少なく信じがたい」と率直に話す。

 これに対し調査員Aは、「メモリー効果については、その原因さえ特定されていない。説明できないのは無理もないのでは」と実情を明かす。

 安井副学長も助け船を出し、「実際に使った経験から、エネループに限らず最近のニッケル水素電池は、メモリー効果が生じにくくなっているという実感がある。看板に偽りはないと見ていいだろう」と好意的に受け止め、「ニッケル水素電池特有の弱点は、おおむね払しょくされたと考えていい」と結論づけた。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
様々な製品分野の生産技術に詳しく、LCA評価手法の向上にも熱心に取り組む
 
                 
  調査員B   調査員B
環境配慮製品の実力を、粘り腰の情報収集力を生かして分析する。環境意識の調査にも積極的
  調査員C   調査員C
森林認証など自然環境の保護に関心を向ける研究者。市民の視線で冷静に時勢を分析する
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ