排気量660cc以下のエンジンを搭載し、「K-car」の愛称で人気を集める軽自動車。売れ行き好調を背景に、新車の投入も相次いでいる。(写真は、新エンジン搭載などフルモデルチェンジしたダイハツ「ミラ」)
排気量660cc以下のエンジンを搭載し、「K-car」の愛称で人気を集める軽自動車。売れ行き好調を背景に、新車の投入も相次いでいる。(写真は、新エンジン搭載などフルモデルチェンジしたダイハツ「ミラ」)

 軽自動車の販売が好調だ。国内の新車販売台数は2004年以来、3年連続で増え、2006年には初めて年間200万台の大台に載せた。同400万台割れが続く普通自動車とは対照的だ。

 国際連合大学の安井至副学長は、「これまで、クルマによる環境影響は大型トラックや普通乗用車にばかり関心が向けられてきた。だが、軽自動車が少数派ではなくなった以上、目を向ける必要がある」と指摘する。

 特に最近、懸念を抱いているのは、軽自動車=低燃費車とは言い切れなくなってきた点だ。販売台数上位の中から実例として示したのは、「軽自動車でありながら広々とした空間が魅力」と人気を集める、ダイハツ工業の「タント」やホンダ「ゼスト」などだ。カタログをめくりながら燃費を確認した安井副学長は、「最も優れた型式でも燃費は18~19km/ℓで、1ℓ当たりの走行距離が20kmを割り込んでいる」と不満げだ。

車体重量増で燃費が悪く

 ともに一部の型式では国土交通省が定める2010年度の燃費基準を達成していることから、調査員Cは、「低燃費車と考えても良いのでは」と疑問を挟んだ。だが、安井副学長は、「基準を達成できているのは、軽自動車としては重めの車体重量に助けられているから、とも言える」と、あくまでも持論を貫く。

 クルマの燃費基準は、排気量別ではなく車体重量に応じて、9段階(ガソリン乗用車の場合)の区分で設定されている。タントもゼストも車体重量が828kg以上1016kg未満の区分に属している。この区分の燃費基準17.9km/ℓをクリアしているが、調査員Aは、「重量が同等の乗用車、例えばトヨタ自動車『ヴィッツ』は24.5km/ℓ、ホンダ『フィット』は24km/ℓと燃費が良い。タントやゼストの実力は物足りない」と追随する。

 これについて調査員Bは、「排気量当たりの車体重量が重いため、燃費が悪くなるのも当然だろう」と指摘する。ヴィッツは996ccのエンジンで990kgの車体を、フィットは1339ccのエンジンで990kgの車体を動かしているが、タントとゼストは660cc弱のエンジンで850kg以上の車体を動かしている。「小さなエンジンで大きな体を動かすのだから、エネルギー消費効率が落ちるのが道理」と全員がうなずいた。

 加速性能を補うため、ターボエンジンを搭載している車種も少なからずあり燃費悪化を招く一因になっている。重量と燃費の関係を整理すべく、調査員は国交省の資料やメーカー各社のカタログから値を抽出。これを分布図にまとめた()。

図●軽自動車の車体重量別カタログ燃費
図●軽自動車の車体重量別カタログ燃費
国交省の2006年版「自動車燃費一覧」に掲載された各車種のうち、最も低燃費のクルマの値を抽出。例えばミラシリーズのうち最も低燃費のタイプの値を使った。10・15モードと呼ぶ走行パターンによる測定値で、実際の運転に伴う実用燃費とは隔たりもある

 すると、車体重量が増すごとに燃費が悪く、900kgを超える軽自動車では、いずれの車種も燃費基準を達成していないことが判明した。900kgを超すと調査員Aの指摘通り乗用車2車種の健闘が際立つ。

 安井副学長は、「軽自動車は低燃費というのは誤った見方」と指摘し、「CO2削減が叫ばれる折に、軽自動車に対する優遇措置をいつまで継続させるのか、再考が必要。もし今後も優遇を続けるなら、サイズや排気量だけでなく、燃費か車体重量の規定も設けるべきだろう」と提言した。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
環境配慮製品の実力を、粘り腰の情報収集力を生かして分析する。環境意識の調査にも積極的
 
                 
  調査員B   調査員B
エネルギー科学が専門。新たに台頭してきた技術を、環境や人間の受容性などで総合評価する
  調査員C   調査員C
厨房設備の排水浄化を手がけ、営業車両へのエコカー導入を率先。環境意識の啓蒙にも注力
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ