今回から8回にわたって、日経コンピュータが第2回「企業のIT力」ランキングを作成する際に着目した8つの視点について1つずつ取り上げていく(→100位までの総合ランキングと調査の詳細はこちらの記事を参照)。1回目に取り上げるのは「経営層との関係作り」。IT部門が経営層とどのように距離を縮め、経営戦略の実現に貢献しているかを9つの設問(調査票から「IT力」の算出に使った質問を抜き出して柱ごとにまとめた「抜粋版」)で聞き、各社のスコアを集計したところ、270社中1位はセイコーエプソンとなり、2位に住友電気工業が入った。

「経営層との関係作り」ランキング

順位 企業名 偏差値
1 セイコーエプソン 66.74
2 住友電気工業 65.50
3 東京海上日動火災保険 65.29
3 アサヒビール 65.29
5 NEC 65.24
6 キヤノン 64.01
6 日立製作所 64.01
6 富士フイルム 64.01
9 松下電器産業 63.85
10 大和証券グループ本社 63.79
10 損害保険ジャパン 63.79



第1位 セイコーエプソン

 セイコーエプソンにはCIO(最高情報責任者)の役割を果たす役員が2人いる。「情報化戦略についても経営と執行の両面から見ていかなければいけない」(同社)と考えたからだ。

 毎年更新している3カ年の情報化戦略立案の責任を持つのが経営戦略担当の常務取締役だ。経営戦略や経営の状況に沿うように立案し、経営会議に諮る。経営会議で承認された情報化戦略の個別の案件を実行するのがもう1人のCIO、つまり経営戦略担当の業務執行役員だ。情報化戦略に基づき、個別のシステム化案件を企画、実行する。

 同社では、「新システムの構築による新事業」や「売り上げ拡大を目的としたシステムの再構築や修正」「システムの再構築による業務改革」などを利用部門に提案してきた。中でも特徴的な取り組みは、システム化案件について経営層ときめ細かく対話しているところだ。同社は、システム化案件ごとに効果を金額に換算し、起案書に明記している。

 基本的に、外部のITベンダーやシステム・インテグレータに支払う金額が1000万円未満の案件の場合、業務執行役員が承認し、実行に移す。しかし、1000万円以上の案件の場合は、常務取締役が経営会議に提出し、承認を受ける形を取っている。連結売上高が1兆4000億円を超えるセイコーエプソンのような企業規模では、IT投資の可否が経営会議のテーマになるのは1億円以上の案件に限定するのが一般的で、1000万円以上という単位できめ細かく審議するのは珍しい。

 セイコーエプソンは、効果を「売り上げ拡大」「経費削減」「生産性向上」「リードタイム短縮」の4つのカテゴリに分けて算出する。例えば、3人の作業を2人で可能とし、残業代も減らすことで、年間1000万円の経費削減につながる、といった具合だ。実際に経営層が承認し、実行に移す案件は年間70件程度だという。そのほか、M&A(企業の合併・買収)案件について議論する際、正式決定前の検討段階で、常務執行役員はIT部門を招集し、相手側の情報化資産を評価・確認するようにしている。


第2位 住友電気工業

 2位の住友電気工業は40年近く、情報化に関する案件や投資の効果を審議する会議体を設けることで、経営層の理解を深めている。その歴史の中で、投資対効果を算出する独自の計算式を編み出し、効果を測定できるようになった。

 投資効果は、分母に総投資額、分子に独自指標の「年間期待収益」を取った「投資収益率」で判断する。年間期待収益は、利用部門とIT部門が見積もった「定量効果」からシステム運営費などを差し引いて算出する。投資収益率の目標は30%。稼働から3.3年での投資回収を目指している。ただし、住友電工が部門長レベルが集まる「情報管理推進委員会」で審議するのは3億円以上の案件である。


第3位 東京海上日動火災保険、アサヒビール

 3位には、東京海上日動火災保険とアサヒビールの2社が入った。東京海上日動でも10年以上、経営会議の下に「情報化委員会」を設け、システム化案件を議論している。現在は、全社を挙げた業務プロセス改革を進めているが、その中核に情報システムとIT部門を置くなど、IT部門は経営層からの信頼が厚い。同社は、隅修三社長や石原邦夫 前社長(現会長)などCIO経験者が社長に就任している。ITが経営戦略にとって不可欠だという認識が根付いている。

 アサヒビールは、M&Aでのデューデリジェンス(資産査定)にIT部門が関与するなど、重要案件への関わりを強めている。従来、M&Aに伴うシステムの整備や統合に、12~24カ月を要していた。統合後のシステムにアサヒビール並みの機能を備えさせるのに苦労しているからだ。2006年5月に買収したベビーフードの和光堂の場合も、システムを完全に整備し終えるのに2年程度かかる見通しだ。デューデリジェンスの段階からIT部門がかかわるようにして、システム統合期間を6カ月程度に短縮することを狙う。