Qript
代表取締役社長 CEO
渡邉 君人

インスタント・メッセージ・システムは一般に使われるコンシューマ向けIMと企業などに向けて開発された企業IMに大別される。コンシューマIMは手軽に利用できる半面、セキュリティは十分とはいえない。これに対して、企業IMはセキュリティや運用管理など、企業での利用を想定した仕組みが組み込まれている。

 1996年に誕生したとされるインスタント・メッセージ(IM)は、常時接続環境やブロードバンド環境が追い風となり、この10年でユーザーが増え、インターネット・ユーザーのほとんどが存在を知るツールとなった。

 リアルタイムでメッセージをやりとりできるIMは、携帯電話を使って「ほぼリアルタイム」にメールを交換するのが当たり前の若者には違和感がないことも一因だろう。友人や家族同士で同じIMサービスに登録しておけば、ちょっとしたやりとりが簡単にできるし、USBカメラを接続すればテレビ電話的な使い方もできる。

 このような機能を持つIMは業務に使っても便利だ。「A社の納期の件、どうなりました?」「添付資料を確認しておいてください」「××さんから電話ありました」というような、メールを送るほどのこともない揮発性の高いメッセージのやりとりに適している。メールの送受信件数が減れば重要なメールを読み逃がすことも少なくなる。また、プレゼンス機能を使えば、内線で在席状況を確認するなどの手間も省ける。

コンシューマ用IMはリスクが伴う

 とはいうものの、コンシューマ用のインスタント・メッセンジャーをそのまま従業員のPCにインストールして利用するのは、企業としてはやはりリスクが高い(図1)。その理由のひとつは、フリーで利用できるコンシューマ用IMの場合、やりとりされるメッセージやファイルを情報システム部門側で把握することができないこと。万が一情報漏えいが発生したとしても、流出した情報や流出させたユーザーを特定することができない。社外との私的利用を制限することもできない。

図1●コンシューマ用IMにはリスクが高い
図1●コンシューマ用IMにはリスクが高い

 コンシューマ用のメッセンジャーを標的としたウイルスやスパムがすでに発生していることもリスクのひとつである。会社で使っているメッセンジャーがウイルスに感染すれば、社内システムへの影響や情報流出が起こり得る可能性がある。このようなリスクに対して、たとえば米Symantecが、メッセンジャーを含むアラート・サービス(DeepSight Alert)を企業向けに提供している。

 このようにコンシューマ用メッセンジャーは、企業利用の観点で見たときにそれなりのリスクを伴う。そこで登場してきたのが企業での利用を前提としたIMだ。

企業向けIMの特徴

 企業でもIMの利便性が認識されてきたが、コンシューマ用IMは企業で利用するにはセキュリティ面や管理面が十分とはいえない。そのため、コンシューマ向け製品で不足しているセキュリティや管理機能を強化するとともに、ビジネスに必要な機能を付加した企業向けIMが注目されるようになってきた。特に、プライバシーマークやISMS(Information Security Management System)などの取得により、セキュリティ・ポリシーの順守が厳密に要求される企業からのニーズが多くなってきている。

■基本的機能(1):メッセージ

図2●相手のメッセージの受信状況がわかる
図2●相手のメッセージの受信状況がわかる
(1)相手にメッセージが届いたことがポップアップ表示され、(2)開封するとメッセージが表示される。(3)送信側は相手にメッセージが届いたこと、開封したことがわかる。
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 メッセージは「あの件、どうなってる?」「資料添付します」「○○さんから電話ありました」など、簡単な情報をやりとりするのにとても便利な機能である。相手を選んでメッセージを作成、送信すれば、相手にメッセージが届いたこと、そして開封したことがわかる(図2)。企業向けIMには、グループ向けの一斉配信機能もある。部署やプロジェクト内での情報共有や総務からの伝達などに役立つ。

 メッセージの作成、送信は簡単である。たとえば、Qriptの企業向けメッセンジャー「Yocto(ヨクト)」では、送信したい相手の指定は、メンバー・リストから名前を選んで「宛先」欄にドラッグ&ドロップするだけでよい。

 メッセージ機能に慣れると社内のちょっとした連絡には電子メールを使わなくなる。Yoctoを導入した企業にも、とくにルールを設けていないのに、社内の連絡はほとんどメッセンジャーを利用するようになったというところが多い。メールはもっぱら外部との連絡にしか使わない。それだけIMが使いやすい、目的に合っているということだろう。

 また、送ったメッセージを相手が見たか(開封したか)どうかを確認する機能を搭載するIMもある。Yoctoは、相手がメッセージを開封すると、右下のツールバーに「○○さんがメッセージを開封しました」というテロップが表示される。メールにありがちな送りっ放しによる不安感もなく、確認電話も不要になる。メールにも開封確認機能はあるが、利用しているメーラー・ソフトの種類が違って使えない場合が多いなどの理由で一般的ではない。

■基本機能(2):プレゼンス機能

 席にいるかどうかなどの状態を相手に知らせる機能が「プレゼンス」である。Yoctoの場合、視覚的に瞬時に認識できるように、基本的な状態を4色に分けている(写真1)。緑は相手が「オンライン」の状態、赤は「不在」または「携帯電話でログイン中」で、このときに送ったメッセージは相手の携帯電話に転送される。黄色は「メッセージは受信できる状態であるが、離席中ですぐに応答できません」を示す。白はオフラインだ。マイクロソフトのIMシステムでも、プレゼンス情報を色分けして表示する。緑が「オンライン」、赤は「応答不可」などとなっている。

写真1●プレゼンス表示
写真1●プレゼンス表示
【左】OnNet(緑色)は応答可能の状態を示す。赤色は長い時間離席しているときや外出中、携帯電話からアクセスしている場合。黄色は「メッセージは受信できるが返信できない」という状態を示す。IMを利用していないときは白い色になっている。【右】よく利用するステータスをあらかじめ登録しておき、そこから選べる。

 IMソフトによっては、「第一会議室」「食事中」「1Fロビー」など、よく利用するプレゼンス情報を登録したり、その都度、プレゼンス情報を自由入力したりできるものがある。

 プレゼンス機能は基本的に、自分のプレゼンスをクライアント・ソフトを使って設定するという操作が必要である。そのため、設定を忘れたり、忙しいときに意図的に「不在」とウソのプレゼンスを設定したりすることがある。この対策として、パソコンを操作していたら「在席」、一定時間操作しなかったら「離席」と自動的に設定するソフトもある。また、Exchange Serverと連携して予定表にある情報をもとに、プレゼンスを表示することも可能である。

 プレゼンス機能で注意したいのは、だれのプレゼンスでも全社員が同じように見せる必要はないということである。たとえば、企業トップのプレゼンスはあまり細かく見せないほうがいい場合もある。役職などによって、可視/不可視、さらには見せる情報の粒度を設定する機能があると望ましい。