「Wikipedia」の共同創設者の一人,Jimmy Wales氏(写真)らが新たに開発中の検索エンジン「WikiaSearch(仮称)」のリリースが間近に迫っている。シリコンバレー情報を伝えるITブログのTechCrunchは,開発途中のWikiaSearchのスクリーン・ショットを掲載し,「そのサービスが年内には開始されそうだ」と予想している(TechCrunchの記事)。Wales氏はGoogleへの対抗意識をあらわにしているわけではないが,米IT業界では「Googleを脅かすものがあるとすれば,それはWikiaSearchではないか」との見方も出てきた。

オープン・ソースの人力検索エンジン

写真●2007年9月に開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」で講演するJimmy Wales氏
写真●2007年9月に開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」で講演するJimmy Wales氏
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 WikiaSearchとは,Wikiaが開発中のオープン・ソースによる検索エンジンだ。詳細は後述するがWikiaSearchの特徴は,内部の仕組みを公開することで検索結果に到るプロセスの透明性を確保すること。そして一部の検索結果の編集に際して,コミュニティの意見を取り入れることだ。いわゆる「人力検索エンジン」の一種とも言える。これらがGoogleとの最大の違いであり,WikiaSearchがGoogleへの対抗馬と見られるゆえんでもある。

 WikiaSearchが注目を浴びる別の理由は,それを誰が開発しているか,という点にある。厳密にはWikiaは同名のコミュニティ・サイトを運営する営利企業であって,Wikipediaを運営する非営利団体のWikimedia Foundationとは別の組織である。しかしWikipediaの顔とも言えるWales氏がWikiaの共同創設者でもあるため,往々にして外部からは両者が混同されてしまう。今回も「Wikipediaほどの成功を収めた人達が,今度は検索エンジンの開発に乗り出したのから,ひょっとしたらGoogleに勝てるかもしれない」という期待を抱かせてしまうのだ。

 しかしながら,今のGoogleの勢いを見る限り,それに打ち勝つ企業が現れるとはなかなか想像し難い。同社の株式時価総額は11月末時点で1620億ドル余り(約18兆円),手持ちの現金資産だけでも131億ドル(約1兆5000億円)に達する。その潤沢な資力を背景に,最近では携帯電話事業に触手を伸ばし,太平洋を横断する海底ケーブルの敷設プロジェクトに出資し,果ては太陽光や地熱発電など代替エネルギー開発まで手がけようとしている。一体,どんな企業になろうとしているのか,この世界で何をやり遂げるつもりなのか,その野望は計り知れず,その勢いはとどまるところを知らない。

Googleの死角は意外にもコアの検索ビジネス

 その一方で,今のGoogleに死角があるとすれば,それは意外にも同社中核の検索エンジン・ビジネスではないか,との見方もある。New York Times紙によると,「確かに今のGoogleは,検索エンジン市場で競合他社を寄せ付けない強さを見せつけている。しかしそれは,1990年代のMicrosoftが基本ソフトでIT業界を支配したような磐石な状態とは異なる。すなわちインターネット検索はしょせん,無料サービスである。その上,どんな検索エンジンでも使い方は,検索窓にキーワードを入力するだけ。つまりユーザー・インタフェースは同じだから,もしもGoogleより格段に便利な検索エンジンが登場すれば,人々は簡単に乗り換えてしまう」というのだ。

 Googleは実に様々な事業に手を伸ばしているが,その収入の大半は,いまだに「Google AdWords」や「Google AdSense」などの検索関連広告からあがっている。万一,この屋台骨が揺らぐようなことがあれば,同社が思い描く壮大なビジョンも砂上の楼閣のように崩れ落ちてしまう。とにかく今のGoogleは,あまりにも多くのことに手を出しすぎている。そのスキを突いて,本丸の検索エンジン市場を思わぬライバルに奪われないとも限らない。

 実際,New York Times紙は,2007年1月時点でシリコンバレーには新しい検索サービスに挑戦する企業が少なくとも79社は存在し,そこにベンチャー・キャピタルから3億5000万ドル(約390億円)が注ぎ込まれていると報じている。これらの中には,自然言語検索のPowersetやhakia,あるいは人力検索のMahalo.comやChaCha Searchなど,従来とは全く異なるアプローチで検索エンジンに取り組む企業もいくつかある()。意外な角度から斬り込んでくるだけに,当たればGoogleに相当の痛手を負わすポテンシャルを秘めている。

表●Googleへのチャレンジャー達
企業名検索エンジンの種類サイトのURL
hakia自然言語検索http://www.hakia.com/
Powerset自然言語検索http://www.powerset.com/
Bessed.com人力検索http://www.bessed.com/
ChaCha Search人力検索http://www.chacha.com/
Mahalo.com人力検索http://www.mahalo.com/
NosyJoe人力検索http://nosyjoe.com/
Sproose人力検索http://www.sproose.com/
Squidoo人力検索http://www.squidoo.com/
Wikia(WikiaSearch)人力検索http://search.wikia.com/wiki/Search_Wikia

既存の検索エンジンは,内部の仕組みがブラック・ボックス状態

 WikiaSearchもそうした革新的な検索サービスの一つであり,恐らく最大の期待を集めているチャレンジャーだ。そのプロデューサーであるWales氏は,今年9月に東京で開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」における講演で,Googleをはじめとする今までの検索エンジンの問題点を次のように指摘した。

 「これまでの問題点は,検索エンジンの内部で何が起きているのか(一般ユーザーには)全く分からない,つまりブラック・ボックス状態になっていることだ。たとえばGoogleが(検索したWebサイトを)どのようにランキングしているのか,それは外部からは全く知りようがない。もちろん(GoogleのPageRankのように)基本的な原理は公開されているが,(具体的にランキングを決める)アルゴリズムは公開されていない」。