プレス機器メーカーの浅井興産は2006年9月、無線LAN機能付き携帯電話を部品の棚卸し業務に適用した。部品棚に付けたQRコードを読み取ることで、1時間半で棚卸しが完了するようになった。今後は無線LANと携帯電話をインフラに、経営の“リアルタイム化”を推進する。

IT Japan Award 2007

 「社内における工程の進捗状況をどれだけリアルタイムに見えるようにするかが、今の経営には求められている」──。

 油圧プレス機などを開発する浅井興産で経営管理とシステム全般を預かる北山由美管理部副部長は、ITへの期待をこう語る。

 浅井興産が開発する油圧プレス機など、顧客の仕様に合わせて作る受注生産の現場では、仕様変更がギリギリまで続きリードタイムは短くなる一方だ。それだけに、経営効率を高めるには、進捗状況などの“見える化”が不可欠だ。これまでにも、受注状況や設計図面などをLAN上で公開してきたが、在庫の見える化は経営課題の1つだった。

携帯電話をPDAとして利用

 そこで浅井興産が採ったのが、無線LAN機能付き携帯電話を、無線PDA(携帯情報端末)として利用すること。携帯電話が持つQRコード(2次元コード)の読み取り機能を使って棚卸しを実施する。

 QRコードを印刷した銘板を、倉庫内の部品棚に添付し、このQRコードは携帯電話で読み取る。個数を電話のキーパッドから入力することで、部品の在庫量が基幹システムに登録する。実際の登録作業は、基幹システムとは別のサーバー上で動作するJavaアプリケーションが処理する仕組みである。

 2006年9月にシステムが稼働した。それまでの手作業ではデータの入力や集計などを含め3週間かかっていたものが、わずか1時間半で終了した。棚卸し結果をほぼリアルタイムに把握できるようになったことで、その日のうちに発注システムが使う在庫数テーブルを更新。翌日には在庫量をにらみながらの発注が可能になった。在庫量の削減につながり、現在庫に比べ20%程度の削減を見込んでいる。

 無線LAN付き携帯電話を使ったことで予想外のメリットもある。同社の自社工場内は、無線LAN環境を整備済み。しかし、協力工場などでは、無線LAN環境が整っていない。そうした場所でも、携帯電話のパケット通信機能を使えば基幹システムとやり取りができる。各工場の全倉庫の棚卸結果をデータベースに反映し最新の在庫量を把握できるわけだ。

棚卸しは第1弾にすぎない

 浅井興産が携帯電話の棚卸しへの活用を考えた背景には、VoIP(ボイス・オーバーIP)技術を使った無線IP電話の導入がある。大きなコストを投じた無線IP電話の投資回収には、通話料のコスト削減だけでは間に合わない。そのインフラを、より多様な方面に活用する必要があった。

 今回、携帯電話とQRコードを組み合わせることで、在庫量の「見える化」が可能なことが確認できた。これをベースに、経営効率の向上に必要な“見える化”に向け、他業務にも適用していく計画で、既に第2、第3の案を練っている。

●応募案件のプロフィール
システム名 携帯電話を使った棚卸しシステム
稼働時期 2006年9月
協力ベンダー NTT ドコモ北陸、ユニアデックス、日本オープンシステムズ
概要 無線LAN 機能付き携帯電話をPDA (携帯情報端末)代わりに利用し、棚卸し作業を軽減。QR コードを読み取り基幹サーバーにデータ入力することで、リアルタイムな在庫の見える化を実現した