三菱東京UFJ銀行の基幹業務システムをベースに、同行と親密な関係にある地方銀行が別途必要となる機能を共同開発して実装した。多様化する顧客ニーズに即応する体制を整える一方で、大幅なコスト削減を達成するのが目的だ。共存共栄を図りたいグループにとって、新しいシステムのあり方を示している。

IT Japan Award 2007

 2007年10月、郵政民営化による「ゆうちょ銀行」が発足し、金融業界を取り巻く環境はさらなる激動が予想される。特に厳しさを増すのは地方銀行で、顧客獲得競争は一段と強まると見られている。

 新商品の展開や顧客サービスの充実などで、ますます重要性を帯びてくるのが情報システムだ。規制緩和や法改正、技術面などの変化に合わせて将来にわたってのIT対応力を確保し、競争力の向上を目指すことが欠かせない。とはいえ、次々と出てくるシステム化案件に対して、相対的にIT活用面で不利な地方銀行がすべてを自行でまかなうには限界もある。システムの開発・運用にかかわるコストは可能な限り削減しなければならない。競争力とコストという相反する課題をクリアすることが、地方銀行の生き残りのカギである。

 こうした課題の解決策の1つとして注目されるのが「Chance(地銀システム共同化)プロジェクト」である(図1)。これは三菱東京UFJ銀行が開発した基幹業務システム(預金や外為などの勘定系、インターネットバンキングなどのチャネル系、データ分析などの情報系)をベースに、同行と親しい関係にある地銀が別途必要な機能を共同開発して実装するというものだ。

図1●「Chance」プロジェクトに参加する地方銀行の狙い
図1●「Chance」プロジェクトに参加する地方銀行の狙い

 第1号として常陽銀行が07年1月に本稼働を開始。続いて5月には百十四銀行が共同システムに移行した。そのほか、十六銀行、南都銀行、山口フィナンシャルグループがプロジェクトに加わっている(図2)。

図2●地銀5行と三菱東京UFJ銀行、日本IBM の関係
図2●地銀5行と三菱東京UFJ銀行、日本IBM の関係
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 参加各行にとってみれば、インターネット・バンキングなど多様化する顧客ニーズに対し、的確に対応できる体制を整備できたのが大きなメリットだ。規制緩和に伴う新商品の展開や法改正によって求められる業務変更などに対しても、三菱東京UFJ銀行は随時、必要となるモジュールを提供する。大規模化と複雑化に拍車がかかる銀行システムに対し、参加地銀は自社のシステム要員だけで対処する必要がなくなり、疲弊感が解消された。

 システムの開発・運用にかかるコストは、従来の個別開発と比べ20~30%の削減を見込む。まずシステム要員については、共同出資の開発運用会社を設立して集約することで、人的リソースの共有・活用を可能にした。一方、ハードウエア面では、同一のメインフレーム群上で各行個別のシステムを稼働させる「論理分割方式」を採用する。これによって同居効率を向上し、1行当たりの負担を減らしている。

 勘定系システムは2系統とし、周辺機器も冗長構成にした。さらに各種の災害対策システムも用意しており、安全性や信頼性の面でも大幅な改善効果がある。