情報システム部やベンダーのマネージャと若手にうかがいたい。上司にづけづけとモノを言い、部下をどやしつける現場のリーダーは必要かどうかを――。

 「人材育成の意識が低い現場では、若手ITエンジニアのやりがいが失われている」。こうした人材育成とやりがいとの関係が、数値で示された。IT人材の可視化を目的とした任意団体、ITスキル研究フォーラム(iSRF)がITエンジニア3万人を調査したデータを、日経コンピュータで分析した結果だ(詳細は日経コンピュータ2007年11月26日号、概要は日経コンピュータのサイトに掲載している)。

 まず、マネージャに見ていただきたい数値。「プロジェクト・マネージャ(PM)や上司が部下の能力向上に熱心でない」と回答した474人の「やりがい(=働く意欲)」を調べると、「やりがいを感じていない」(31.2%)が「感じている」(6.1%)を大きく上回る。

 逆に、「PMや上司が部下の能力向上に熱心である」と回答した208人は38.0%が「やりがいを感じている」と回答。「どちらかと言えば感じている」を合わせると82.2%に達する。

 すなわち、人材育成の面が労働環境の問題として最も大きいのではないだろうか。大学生がIT業界を敬遠する理由は「キツイ、帰れない、給料が低い」という“3K”だといわれ、事実ある。ただ、今回のアンケート調査からは、「平均年収550万円(平均年齢35歳)、平均残業時間は週7時間、約6割が40歳以降もこの仕事を続けられると感じている」という結果も出ている。全体的にみれば、3Kばかりとは言いにくい。

 やりがいと残業時間との関係性は低い、という結果も出ている。やりがいが乏しいのは、スキル・レベルでみるとエントリ・レベル(ITスキル標準のレベル1、2で、上位レベルの指導の下で職務の課題を発見解決する人)の若手だ。調査では、若手のほうがハイレベル(ITスキル標準のレベルの5、6、7のITエンジニア)のベテランよりも残業時間は少ない。むしろ、残業時間が少ないほど、やりがいを感じていない。

 ではなぜ、人材育成の意識が低い上司がいるのか。

 今回の調査では、赤字プロジェクトや納期に無理があるプロジェクトで、育成できていないという傾向が見られた。つまり、「忙しいから」というのが1つの理由だ。

 昔は忙しくなかったのか、と問えば、42歳の自分が新入社員だったころの企業の情報システム部が、どうだったかよく分からない。ただ直感的には、いまは納期や品質に厳しい現状で余裕のなさを感じる。「若手に仕事をやらせ、ダメ出しをしながらプロジェクトを進める」といった“シゴキ”ともいえる教育は、難しいだろう。

 若手に聞きたいのは、こうした厳しいリーダーを求めているかどうかだ。あるITベンダーの部長は、「自分から報告するのが億劫な若手が多いため育てる側が受け身では難しいが,きつく話すと“へこむ”場合が多いので、教える側はよく考えなければならない」と自らの経験から教訓を話す。

 自分が若手であれば、「役割と責任を明確にしてほしい。見本をみせてほしい。だめなところは、指摘して欲しい。ただし、傷つかないように」と言うかもしれない。“新人類”といわれた我々の世代は、そうした気持ちがあったとしても、先輩に通じたことはないのだが。。。

 ここまで話すと、筆者が「マネージャと若手に挟まれたミドル層」だと分かるだろう。育成の意識が低いわけではないが、目の前の仕事に忙殺され、すぐへこむ後輩を育てるのに悩んでいる。

 つぶやきと言うよりぼやきになってしまったが、情報システム部では、シゴキができる人材や環境を復活させる必要があるのではないだろうか。とはいえ、経営への貢献が求められ、信頼性の向上やオフショア化で情報システム部の責任が増すなか、昔の優秀なエンジニアを復活するだけでは済まない。難易度の高いプロジェクトをこなせるのは必要条件だ。かつ、いまどきの若手を育てられる新たな“ITリーダー”が求められる。

 現場でシゴキを復活するための、いくつかの条件は明らかだ。

 まず、ITリーダーの役割を明らかにすること。その上で必要な知識やノウハウを示す。そのためには、企業は、ITリーダー像を明確にする必要がある。次に、現状を明らかにし、足りない知識やノウハウをつけさせる。しかし、ITリーダーになるための知識やノウハウの内容は教科書には書かれていない。経験知として得るしかないため、実際の経験をいかに積ませるかが重要になる。職場では、ITリーダーとしての権限を与える。もちろん、部下の育成に費やせる時間と心の余裕は必須だろう。

 日経コンピュータでは、「いま必要なIT人材の育成法」と題したセミナーを企画した。このセミナーで紹介するKDDIのケースからは、現状の課題を明らかにする方法を、富士フイルムコンピューターシステムのケースでは経験知を高める1つの方法を提示する。また、日本ゼネラル・エレクトリックのケースは、2年間、若手リーダーを養成するもので、シゴキとはいえないかもしれないが、現場で知を継承する1つの好例だ。次世代を担うITリーダーの育成に、本セミナーが少しでも貢献できればと思う。