ワイヤレス・ブロードバンドが携帯電話と最も違うのは,ネットワークと端末をオープン化する点である。2.5GHz帯の割り当てを求める事業者は,事業計画の説明でも「オープン」というキーワードを盛んに繰り返している。特にモバイルWiMAXを採用する3社は,オープン化を事業計画の中核に据える(図3)。

図3●「オープン」を指向するワイヤレス・ブロードバンド事業者
図3●「オープン」を指向するワイヤレス・ブロードバンド事業者
各社が発表した事業計画には,共通して「オープン」という文字が躍った。

 各社がこれほどオープン化を意識しているのは,携帯電話では実現できなかった類のサービスを開発したいと考えているためだ。携帯電話は,アプリケーションや端末の開発について携帯電話事業者がコントロールする部分が大きい。これだと,高い品質を保った均一なサービスを展開しやすい半面,携帯電話事業者以外の事業者や企業が持つアイデアを生かしづらい。

 そこでワイヤレス・ブロードバンドの事業者は,アプリケーション事業者や端末メーカーのアイデアを生かしやすい環境を求めた。それがオープン化である。端末,回線,アプリケーションに水平分離した事業構造にするわけだ。ワイヤレス・ブロードバンド網は端末とサービスをつなぐ“土管”となり,アプリケーション事業者や端末メーカーはそこを基盤に独自のサービスや端末を作り込んでいける。

 これは,総務省がモバイルビジネス研究会で提言していた事業モデルに沿うものでもある。

MVNOの呼び込みでサービスの多様化狙う

 一口にオープン化と言っても方向性は大きく二つある。ネットワークのオープン化(アプリケーションと回線の分離)と端末のオープン化(端末と回線の分離)である。ネットワークのオープン化は,主にMVNO(仮想移動体通信事業者)の受け入れを指す。総務省が9月に示した2.5GHz帯の免許方針では,これを義務化している。

 MVNOとは,移動体通信事業者から無線網を借りて,独自ブランドでサービス提供する事業者のこと。MVNOは,ユーザー認証やIPアドレスの割り当て,位置情報といった仕組みを自ら作り込めるため,自由なサービス設計,料金設定が可能になる。携帯電話では,無線網貸し出しの可否や料金設定を巡って携帯電話事業者とMVNOが対立。なかなかMVNOが登場しない状態が続いている。一方,ワイヤレス・ブロードバンド各社はMVNOを歓迎。MVNOとともにサービスを多様化していく考えだ。

 既に動きも出てきた。例えばNECビッグローブは,モバイルWiMAXの2社に出資して早くもMVNOの名乗りを挙げている。「端末メーカーと協力しながら,端末に合った独自のサービスや料金体系を作りたい」(久保真・事業開発室シニアエキスパート兼ポータル事業部シニアプロデューサー)という。同じく2社に出資するフリービットは「モノとモノをつないでコントロールする『MtoM』で利用したい」(石田宏樹・代表取締役社長CEO)とする。

開発の自由度を高めて端末を多様化

 一方,端末のオープン化は,接続する端末を制限しないことを意味する。

 例えばパソコン,PDA,ゲーム機など無線LANを搭載する端末は,基本的にどの公衆無線LANサービスでも接続できる。ワイヤレス・ブロードバンド事業者も,公衆無線LANサービスと同様のポリシーでサービスを展開する考え。通信事業者が端末の開発をコントロールする携帯電話とは根本的に異なるモデルだ。

 この結果,端末の企画,開発の決定権はほぼ全面的にメーカーに委ねられる。端末メーカーが独自に持つアイデアを実現しやすくなるため,ユーザーは今までにない端末の登場を期待できる。同じ通信規格を採用する事業者が複数あれば,ユーザーは端末はそのままで回線だけを乗り換えることが可能だ。