米国でモバイルWiMAXの事業化が計画通りに進まない可能性が高くなった。全米規模でのモバイルWiMAX網の構築を計画していた米スプリント・ネクステルが,予定していた米ベンチャー企業との提携を白紙撤回するなど迷走しているからだ。モバイルWiMAXへの期待感の縮小が,米国内外の事業者に波及する懸念が出てきている。

 米携帯電話大手のスプリント・ネクステルは11月9日,新興WiMAX事業者である米クリアワイヤとのモバイルWiMAX事業での提携合意を解消することで両社が合意したと発表した。今回の提携解消には,スプリント・ネクステルの業績不振や,同社で長く最高経営責任者(CEO)を務めたゲイリー・フォーシー氏の退任を含めた社内の混乱が影響しているとの見方がある。

 スプリント・ネクステルは,モバイルWiMAXサービスのブランドを「XOHM」(ゾーム)と名付け,次世代の高速移動通信網として本腰を入れて取り組む姿勢を見せていた。設備投資額は2007年に10億ドル(約1100億円),2008年に15~20億ドル(約1650億円~2200億円)とかなり大規模になる計画を発表していた。

 同社がクリアワイヤとの提携交渉を進めたのは,早期に全米をカバーするためだった。両社が提携に合意した段階では,スプリントが都市部,クリアワイヤが都市部以外をカバーして,2008年には全米をカバーするモバイルWiMAX網を整備するとしていた。しかし,提携が白紙になったことで,その見通しは立たなくなった。

 これに加え,スプリント・ネクステル自身の設備投資も計画通りに進んでいない。2007年は10億ドルの設備投資をするはずが,10月に発表された2007年7月~9月度の決算では,モバイルWiMAX事業への投資は7300万ドルにとどまっている。

メーカー,Web事業者の期待感縮小

 スプリント・ネクステルの計画の遅れは,ほかの企業にもネガティブな影響を与えかねない。

 まずメーカーには,モバイルWiMAX市場の将来性がこれまで以上に不透明に映るだろう。メーカーを含むWiMAX業界は,「モバイルWiMAXサービスを本格展開するスプリントが先導役となり,世界の通信事業者のモバイルWiMAX投資に火がつく」という絵を描いていた。このシナリオの実現は先送りになったといえる。

 ポータルや検索サービスなど上位レイヤーのサービスを提供する多くの企業にも影響がありそうだ。スプリント・ネクステルは,モバイルWiMAX網でオープンなモバイル環境を実現するとしていた。上位レイヤーに携わる企業の多くはこの方針を歓迎。オープンなモバイル環境が登場すれば,モバイル・インターネット市場に上位レイヤー事業者が本格参入できると期待が高まっていた。

 しかし,モバイルWiMAX網の整備が遅れることで,ビジネスの立ち上げは遠のいてしまった。特にモバイルWiMAX網向けのポータル開発でスプリントと提携している米グーグルにとっては,うれしくない話だろう。

通信事業者は様子見の態度を強める

 米国以外の通信事業者は,「モバイルWiMAXは様子見」という態度を強める可能性が高い。欧州など先進国の通信事業者の多くは,モバイルWiMAX技術にどう取り組むかを明示していない(表1)。先行する事業者のサービス展開を見極めるスタンスにあると思われるが,スプリント・ネクステルの計画の頓挫は,ネガティブな判断材料となったに違いない。

表1●各国のモバイルWiMAX事業の状況
米スプリント・ネクステルは大規模なモバイルWiMAX網の構築を計画しており,モバイルWiMAX導入の火付け役になると見られていた。
表1●各国のモバイルWiMAX事業の状況

 米国でのモバイルWiMAX展開が遅れることで,モバイルWiMAXの早期導入が確実視される日本市場の動向は,世界の事業者から今まで以上に注目を集めることになる。2.5GHz帯免許の行方が与える影響は,海外にまで及ぶ可能性がありそうだ。