オープン化による水平分離モデルはADSLで成功した。だからワイヤレス・ブロードバンドも同様に成功する──。こんな声も聞かれるが,実際はそこまで単純ではない。固定網と無線網では根本的に異なる要素がある。屋外で移動中の通信をサポートする無線網は,カバー・エリアの広さがサービスの魅力と直結することだ。

 カバー・エリアの拡大には,当初計画の投資に加えて継続的な投資が必要になるが,どうやってそのための収益を上げていくのか。現行ユーザーからの収入があるウィルコムはともかく,モバイルWiMAXを採用した新規3社はゼロからのスタート。きちんと収益を上げられるか不透明で,エリア整備に不安が残る。

 エリアの拡大が進まないと,エコシステムが機能しなくなり,携帯電話との競争に負けるという可能性が出てくる(図6)。この問題は,ワイヤレス・ブロードバンド・サービスの存続すら危うくしかねない。

図6●ワイヤレス・ブロードバンドが抱える課題
図6●ワイヤレス・ブロードバンドが抱える課題
モバイル利用を前提としたサービスの場合,ネットワークがカバーするエリアの差がサービスの魅力に直結する。この点が固定ブロードバンドとは大きく異なり,ADSLやFTTHのような成功シナリオを描けない可能性がある。
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オープン化の落とし穴

 ワイヤレス・ブロードバンドの事業化を狙う事業者は,オープン化により回線事業者とMVNO・端末メーカーでエコシステムを構成して成長シナリオを描いている。具体的には,回線事業者がネットワーク拡大→MVNOや端末メーカーが新たなサービスや端末を投入→サービスの魅力が増してユーザーが増加→回線事業者がユーザー増の収益を元にネットワーク拡大→……,というスパイラル的な成長を想定している。

 ただし,魅力的なサービスや端末の登場とネットワークの拡大は「ニワトリと卵」の関係。ワイヤレス・ブロードバンド事業者,MVNO/端末メーカーが互いに“他力本願”に陥ると,エコシステムがうまく回らなくなる。これでは,サービスの成長はおぼつかない。

 エリア展開が進まないと,ネットワークのオープン化による多様なサービス,端末のオープン化による多様な端末の登場のどちらもが“絵に描いた餅”になってしまう。

 例えばMVNOによるサービスは,法人ソリューションへの活用が期待されている。ただし,カバー・エリアが狭いと,「物流業界やメンテナンス業界,製薬業界など全国津々浦々にサービス拠点がある業態では使いにくい」(野村総合研究所情報通信コンサルティング部の桑津浩太郎・主席コンサルタント)。これでは,提供できる法人ソリューションは限られる。

 端末についても,「モバイルWiMAXのエリアが狭ければ,MVNOとしては3GやPHSと組み合わせて提供せざるを得なくなる。そうなると,端末をオープン化している効果は薄れる」(日本通信の福田尚久・常務取締役CFO)。

携帯電話でも高速化が進む

 携帯電話との競合もワイヤレス・ブロードバンドの課題である。モバイルWiMAXの商用化で先行した韓国では,HSDPAサービスとモバイルWiMAXサービスが競合。モバイルWiMAXサービスのユーザー数は開始から1年以上たった今も約7万と苦戦している。

 携帯電話事業者はデータ通信を大幅に高速化する準備を進めており,早ければ2009~2010年にも3.9Gサービスを開始する。巨大な資本を持つ携帯電話事業者は,いざネットワーク整備を始めたら展開は速い。

 こうしたことから,3.9Gが広がるまでに「ワイヤレス・ブロードバンドだからこそできるサービス」を確立しないと,ワイヤレス・ブロードバンド事業者はユーザーを獲得できずに終わる可能性がある。

 MVNO/端末メーカーとの協業,携帯電話との競合の両面で,ワイヤレス・ブロードバンドはどれだけ早くエリア整備できるかが鍵になりそうだ。