前回のコラムでは、「総合窓口」の実現に向け課題として、次の5つの壁があることを指摘した。

  1. 窓口業務の見直し対する壁
  2. 人や組織の壁
  3. 庁舎・フロアの壁
  4. 予算の壁
  5. システムの壁

 その中でも、「1.窓口業務の見直しに対する壁」こそが、まさに「総合窓口」の実現に向けて最も大きな難関だといえるだろう。そこで今回は、この壁の克服方法について、住民の視点である“顧客目線”に基づいて検討していきたい。

第一の壁は自治体職員自身が作った

 「1.窓口業務の見直しに対する壁」とは、中央省庁による「縦割り行政」によって成り立っている窓口業務と、行政サービスの「申請主義」による業務を、従来通りに「これからもそのように進めて当然」考えている自治体職員による抵抗である(その背景については、別項を参照)。

 我々が自治体を訪問して「総合窓口」について話をすると、「(従来の窓口の方が)専門的に相談対応が出来て処理できるから、そのほうが住民にとっても安心感があり、良いはずだ」という反論が自治体の職員からしばしば返ってくる。確かに、一見「そうかな?」とも思えてしまう反論だが、実は、中央官庁による「縦割り行政」によって位置づけられた「自分の業務の部分最適」のみを押し付けているに過ぎない。住民にとっては、窓口でじっくり時間を費やして相談・確認したい場合もあれば、手続きを早く済ませて帰りたい場合もあるはずである。先ほどの反論は、後者の住民ニーズが念頭に置かれていない。つまり“顧客目線”を忘れた意見だといえるだろう。

 また、「申請主義」は、住民が自ら自治体の窓口に訪れることが前提となるため、自治体の職員は「住民が行政サービスを受けたい、もしくは住民が何らかの届出を行うのは法律で決められているのだから、必要に応じて住民が窓口に出向いてくるのは当然である」という思考になりがちだ。こうなると、自治体の職員は、住民が“たらい回し”されることに何の疑問も感じなくなってしまう。

 このように、「1.窓口業務の見直しに対する壁」は、自治体の職員が自ら作っている壁といえるだろう。今回は、こうした「壁」をどのように克服していくべきかについて考えてみたい。その際に重要なことは、「窓口業務」の見直しに合わせて、人や組織も見直すつもりであれば、見直しの実現は可能ということである。つまり、「1.窓口業務の見直しに対する壁」は、「2.人や組織の壁」を取り払うこととセットで考えなくてはならないのである。

 例えば、福島県須賀川市では、1996年に市役所の総合窓口を試行したが、現場の窓口業務に携わっている職員から「原課でなければ台帳が確認できない」「虚偽申告が見抜けない」といった声が上がり、本格導入には至らなかった。そこで、庁内の組織改編を実施し、2007年1月に旧市民課と旧国保年金課を合体させて、総合窓口を担当する「総合サービス課」を新設した。住民の窓口業務を年間の取り扱い件数が高い保健福祉部(高齢福祉課、社会福祉課)の乳幼児医療費助成等の業務や、税務課の納税証明書発行業務も庁内規則を改正して業務移管させて「総合サービス課」が担当、高齢福祉課から4人、社会福祉課と税務課から各1人を異動させて「総合窓口」を実現している(参考:『日経ガバメントテクノロジー』15号〔2007年春号〕、P.21-22)。

 税の収納や保険料といったお金の支払い関係の窓口を集約することで、住民の利便性が高まるという考え方で作られた総合窓口もある。このサービスは、財務省(税金)と厚生労働省(保険料)という中央官庁の管轄違いによって自治体での取扱いも縦割りとなっていることを理由に、なかなか具体化されにくいが、実際にこうした機能を持つ総合窓口を実現している自治体もある。

 石川県加賀市では、税の収納や保険料といった住民から市に対してのお金の支払いに関する業務を「税料金課」という1つの部署の中に集約し、収納関係に関連した業務を1つの窓口で取り扱っている。同市が市民部に置いた「税料金課」は、「税料制係」(取り扱い業務:軽自動車税、入湯税、市たばこ税、市税に関する証明)、「住民税係」(取り扱い業務:住民税・県民税、国民健康保険税、固定資産税係(取り扱い業務:固定資産税・都市計画税)、「料金係」(取り扱い業務:上水・下水道使用料金、介護保険料、保育料、市営住宅使用料、下水道事業による受益者負担金)、「滞納整理係」(取り扱い業務:納税貯蓄組合・口座振替に関する事務、過誤納金について充当・還付)、「納税指導係」(納税に関する相談)に分かれている。各係の担当者はそれぞれの担当業務を行っているが、住民は市役所の1つの窓口に出向くだけでお金を支払うことが可能となっている。

段階的に総合窓口化を進める

 須賀川市や加賀市においては、行政の縦割りの組織の体制を見直すことにより、総合窓口に受付事務を集約することができている。両市に共通するのは、首長もしくは幹部職員が率先して行政サービスの向上に積極的に関与して取り組んでいる点にある。特に須賀川市の場合は、市長選挙の公約に総合窓口設置を掲げて当選した市長の下、設置を進めた。

 このように、首長等のトップダウンによる強力なリーダシップが発揮できない限り、第一の難関である「1.窓口業務の見直しに対する壁」が立ちはだかる。現場の職員からの大きな抵抗に合い、「総合窓口」の実現に向けた取り組みを先に進めることができないという現実にぶち当たることも少なくない。例えば、ある自治体では、1つの窓口で審査事務の処理まで完結できる「狭義のワンストップ」(受付だけでなく、一つの窓口で手続きのすべてが完了すること。コラム第1回参照)を目指して総合窓口の構築に取り組んだが、「専門知識を覚えるのに大変で、すべての業務など覚えられない」「業務量が一部の職員に偏ってしまう」「必要な手続きを異なる個々のケースごとに窓口ですぐには判断できない」「業務の責任の所在が不明確になる」などといった現場職員の反発に押されて、結局手付かずのまま、「総合窓口」という言葉すらタブー視されてしまった。

 こうした轍を踏まないためには、「2.人や組織の壁」を段階的にすすめることによって、「1.窓口業務の見直しに対する壁」つまり職員の抵抗感を最小限にするというやり方も一案である。

 第一段階として、まずは前回のコラム示したように、証明発行や住民異動等に伴うライフイベント別の手続きの「受付」に関する事務手続きを集約する。これだけでも、「住民をたらい回し」にしない“顧客目線”の「総合窓口」をまずは実現できる(図1)。縦割りとなっている自治体の窓口業務(「審査・認定」等に関する事務手続き)をすべて一カ所の窓口に集約するべきかどうかの判断は、それは後回しとして次の段階で検討すればよいのである。

図1●「第一段階」の総合窓口における窓口業務の事務処理の考え方
図1:「第一段階」の総合窓口における窓口業務の事務処理の考え方

 例えば、愛媛県松山市や佐賀県佐賀市といった“総合窓口の先進市役所”では、戸籍・住民基本台帳関係の部署が中心となって総合窓口の窓口業務を取り扱っているが、届出の受付は市役所の総合窓口1カ所で行い、そのあとの確認・入力・審査などの審査・認定事務は各課で行うようにしている。具体的には、住民異動届と、それに伴う国民健康保険・国民年金・学校指定の異動手続きの用紙が4枚複写式になっており、このうち窓口で担当する住民異動届以外の3枚は各課に回すのである。こうすれば、住民は総合窓口一カ所に届出を行うだけで済むというわけである。(図2)。

図2●総合窓口における内部の事務処理方法(松山市、佐賀市の例)
図2:自治体内部における総合窓口での事務処理方法

 また、大阪府箕面市では、全庁の簡易な受付事務については、市役所の業務担当課窓口に加え、一部を市民部の窓口でも受け付けている(箕面市では、これを市民が窓口担当でも原課でも同じサービスを受けることができる「ダブルサービス」と呼んでいる)。こうすることで、住民異動届などに伴って、いくつもの定型的な住所変更手続きを同時に行う住民/来庁者には、市民部の窓口で簡単に手続きを済ませることが可能となる。また、個人的な事情を相談したり、詳しい説明を聞きたい住民/来庁者に対しても、業務担当課の職員がていねいに応対することができる。

 さらに箕面市では、現在、市民部窓口全体の業務の合理化を目指し、フロントオフィス(窓口事務)とバックオフィス(審査・認定等事務)を切り分け、支所、窓口課、保険医療年金課で構成される市民部窓口全体としての合理化を目指した「総合窓口」に取り組もうとしている(参考:箕面市「窓口業務の全体像」)。

 このように、窓口業務に対する“顧客目線”からの見直しは、段階的に取り組むことも可能だ。入力や審査といった「受付事務」以外の「審査・認定等事務」までを総合窓口に集約するかどうかは、次の段階で検討すればよい。